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【日常】エッツェル留学記9(1)

 グランと恋人になって一ヶ月、僕は少し緊張しながらお城に入った。  それというのも、今日は家族の食事会にお呼ばれしたからだ。 「緊張する…。ねぇ、おかしな所ない?」  何度も何度も聞いた事をまた繰り返し、僕は傍らのグランを見上げる。柔らかく、ちょっとおかしそうにグランは笑っていた。 「どこもおかしな所はないよ、エッツェル。とても可愛い」 「可愛いって…」  甘い視線で、甘い笑顔でそんな事を言われたら照れる。恥ずかしいけれど嬉しくて困ってしまう。僕は赤くなって、グランから視線を逸らした。  お城の中は案外落ち着いている。もう夜だから、限られた人しかいないらしい。  用意された場所は小さめで、距離がわりと近い家族用のテーブルだった。グランと一緒に入っていくと、シキ様が見つけて困ったように微笑んだ。 「エッツェル、いらっしゃい」 「シキ様。あの、僕…」  なんて言えばいいんだろう。思っていると、シキ様は優しく笑って僕を抱きしめてくれる。母上みたいな優しい腕の中で、僕は沢山甘えていた。 「困った子。グランに捕まってしまったのですね」 「幸せです」 「…有り難う、エッツェル」  優しい声、優しい腕の中がとても心地いい。妙に母上を思い出して、ちょっとだけ顔を見たくなった。  けれど、それは後ろから腕を引かれて戻っていく。背中から僕を抱きしめたグランは、ちょっと情けない顔をした。 「母様にはあげない」 「…ぷっ」  しょぼくれた子供みたいな声で言ったグランの言葉に、僕もシキ様もキョトンとした顔をして、次には盛大に笑ってしまった。  少しして、アルファード様も来て僕に笑いかけてくれた。食事が運ばれる前の少しの時間、僕は何か言わなければとずっと思っている。  だって、グランは僕の両親に挨拶をしようと頑張っているんだ。僕だって挨拶は必要だと思う。この食事会はそういう意味合いもあるんだって思うから、最初のうちに言っておかないと。  緊張したまま進み出た僕に、シキ様もアルファード様も少し驚いている。僕は震えそうなのをグッと堪えて、ありったけの思いを口にした。 「シキ様、アルファード様! 僕はグランの事を愛しています。どうか僕を貰って下さい!」 「「……え?」」  思いきり頭を下げたけれど、固まっているのは分かる。何か間違ったっぽいけれど、何を間違ったのかは分からない。  重たい沈黙の中、聞こえてきたのはシキ様の楽しそうな笑い声だった。 「もう、面白いですよエッツェル」 「僕本気です!」 「分かっていますよ。でも、貰って下さいはないでしょ?」 「あの、ここのお家の家族の一員としてですね…」 「分かっています」  コロコロと鈴を転がしたように笑うシキ様の隣で、アルファード様も笑っている。そして、大きな手で僕の頭を撫でた。 「こちらこそ、よろしくお願いする。グランを、幸せにしてあげてくれ」 「っ! はい!」  嬉しいがこみ上げる。幸せが溢れる。その思いで笑った僕の隣りに並んだグランが、とても優しい顔で頷いてくれた。  食事会はとても和やかだった。アルファード様はあまり多くを語らないけれど、話しかけるととても優しい目で笑って、話をしてくれる。その分シキ様はとても優しくて、ちょっとお茶目な感じもあって話が進んだ。

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