115 / 162
【日常】エッツェル留学記9(2)
そして夜、僕は初めてお城の泊めてもらう事になった。
「ここが俺の部屋だよ」
グランが通してくれたのは、城でグランが使っている部屋。天蓋付きのベッドや、彫り込みの綺麗な家具が揃えられている。
「いいのかな、僕。このお城って、部外者は泊められないんでしょ?」
最初の時にそう言われた。だから僕はランス様の屋敷にご厄介になっているんだし。
けれど次に返ってきたのは、とても嬉しい言葉だった。
「何を言ってるんだい、エッツェル? 君はもう、俺の家族だろ?」
「え?」
「家族に、なってくれるんだろ?」
どこか自信のない様子でグランが問いかける。けれど僕の中ではじわじわっと違う感情がこみ上げている。グランの家族として受け入れられたんだっていう、嬉しい気持ちが。
「エッツェルは、泣き虫だよね」
少し笑って、グランが優しく僕の頬を撫でてくれる。濡れた頬が、彼の体温で温まっていく。
「うれし涙、だよね?」
「勿論だよ!」
「よかった。後悔とかしてたらどうしようかと思ったよ」
「そんな事絶対ない! 僕、グランの両親にも家族だって思ってもらえたんだよね」
「勿論」
どうしよう、嬉しくて涙が止まらない。笑いながら頬や目元を拭っていると、不意にその手をグランが止める。そして、そっと眦にキスをして、優しく唇にも触れた。
「歓迎する、エッツェル。いや、これでは偉そうだね。嬉しいよ、本当に。君とこうして家族になれる」
「僕も嬉しい。グラン、大好き」
思った事を口にする。僕はグランの首に抱きついて、そっと優しくキスをした。
突然の知らせが舞い込んできたのは、それから数日後の事だった。
「え? 父上が国王就任?」
シキ様に呼び出された僕とグランは、互いに顔を見合わせる。僕は少し不安で、シキ様を見た。
「あの、祖父様や祖母様になにか…」
「あぁ、違いますよ。現王陛下も妃殿下も元気です。寧ろ元気なうちに退位して、ゆったりと余生を送りたいと思っているようです」
「そっか! よかったぁ…」
安心した。祖父様も祖母様も僕を可愛がってくれたから、その二人に何かあったのかと思った。元気なら良かった。
でも、そうなると国を挙げての祝祭が行われる。父上が王太子から王になるなら、きっとシーグル兄上が王太子になるんだ。その式典もある。
僕は手を握って考えていた。問題を起こして他国に留学させられている僕は、その式典に出席していいのか。そもそも、帰る事を許されていないし。
「エッツェル、マコトさんとユーリスから伝言と手紙を預かっています」
「母上と、父上から?」
「戻っていらっしゃいと」
その言葉に強ばった顔をしたのは、僕じゃなくてグランだった。痛いくらいに手を握っている。耐えるように俯くのを見て、僕はちょっと考えて、首を横に振った。
「気持ちだけで…」
「勿論、式典の間だけですけれどね」
「え?」
グランが顔を上げ、僕もシキ様を見る。ちょっと意地悪に笑ったシキ様が、僕に招待状を渡した。
招待状には式典の日取りが書いてある。そして出席者の名前には僕とグランの名前があった。
「あ!」
「予定よりも早いですが、いい機会です。グラン、エッツェルの両親にしっかりと挨拶してきなさい」
僕とグランは顔を見合わせ、突然の事に期待やら不安やらを抱える事となった。
ともだちにシェアしよう!