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【日常】エッツェル留学記9(3)
あれよあれよと時間が過ぎ、とうとう出発の日になった。
僕は特別に竜化の許可をもらい、黄昏の都を少し出た森の中にいる。側にはグラン、ランス様、シキ様、そして何故かヴィーがいる。
「どうしてヴィーがいるの?」
「ここは俺の仕事場なぁの。夜はここ、闇属性のモンスターがわんさか出るんだよぉ。そいつらを狩るのが、俺のし・ご・と」
勿体ぶったゆるーい声で言うのは、夜勤明けだから。それでもついでにと見送りをしてくれるあたり、結構いい人だ。
「母様、行ってきます」
「気負わず、しっかりやってきなさい。エッツェルも、マコトさんによろしく」
「はい!」
僕は皆から少し距離を取って竜化する。久しぶりで、ちょっと気持ちがいい。一気に視界が高くなって、魔力が全身を隅々まで巡る感じがする。
「わぁお、美人だねぇ」
「本当に、綺麗な黒龍だ」
そんな風に言われるとちょっと照れる。僕はまだ完全な成体ではないから、わりと小柄だ。これが体の大きなロアール兄上や父上なら、もっと大きくて雄大な黒龍になるんだけれど。
グランが僕を見て、驚いた顔をする。ほんの少し、心配だった。
人身から竜化するのは竜人のみで、その大きさはかなり違う。小柄な僕だって竜化すると3メートルくらいあるんだ。怖がる人だって多い。
「綺麗だ」
蕩ける様な視線でグランが言うから、僕はとても恥ずかしくて、とても嬉しかった。
かくして僕たちは森を飛び発って黒龍の国を目指す。そんなに時間はかからないはずだ。時間にして一時間程度で、見慣れた景色が見えてくる。
『もうすぐだよ』
嬉しさのあまり、僕は手の中のグランにあれこれ説明をした。あの森で剣の修行をしていたとか、あっちの町ではよく遊んだとか。
手の中で、グランは楽しそうに笑っている。
『ごめん、煩かった?』
「いや、楽しそうだから。沢山、思い出があるんだな」
『うん』
ちょっと恥ずかしいけれど、知ってもらいたい。グランには僕の事を沢山知ってもらいたいし、グランの事を知りたい。そんな気持ちがムクムクとわき上がってきた。
王都が見えてくる。僕は王都手前の森で降りて、竜化を解いた。そして、グランと一緒に町の中を歩いた。
「賑やかだな」
「うん。今日はきっとお祭り騒ぎだよ」
何せ王の戴冠だ。町ではあちこちで祝い酒と料理が振る舞われ、小さな楽団が音楽を奏でている。どこもここもお祭り状態だ。
「黄昏の都では、こんな騒ぎは起こらないだろうな」
「魔人族の人って、落ち着いた人が多いよね」
「寿命が長いからな」
確かに、平均千歳だから長いだろうけれど。
グランは少し羨ましそうだった。だから、僕は手を引いて笑った。
「じゃあ、僕たちの結婚式は盛大にやろう」
「エッツェル?」
「竜人族の僕がお嫁入りするんだもん、竜人式もいいでしょ?」
こんな風に沢山の人にお祝いしてほしい。グランのトラウマを考えると大変かもしれないけれど、だからって小さくやるのはきっとつまらない。それに、グランだって沢山の人に祝ってもらいたいはずだ。
隣のグランはちょっと驚いて、次には頬を染めて頷いてくれた。
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