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【日常】エッツェル留学記9(4)

 城に行くと直ぐに城の人が出てきて、僕たちを迎えてくれた。通されたのは戴冠の為に用意された席。そこには、兄上や姉上も着席していた。 「エッツェル!」 「ロアール兄上! エヴァ姉上! フランシェ姉上!」  懐かしいなんて言ったら大げさだけど、色んな事があって懐かしく思って、僕は兄上達に突進する。逞しいロアール兄上が僕を受け止めて、嬉しそうに背中を叩いた。 「見ないうちにしっかりしたじゃないか」 「ほんと!」 「あぁ、本当に。元気にしてたか?」 「勿論だよ!」  甘えている僕を、少し離れてシエル様が見ている。シエル様はガロン様の子で、ロアール兄上とはいい感じだ。 「ほんと、いい顔になったわね。エッツィ、久しぶりね」 「エヴァ姉上が帰ってこないんじゃん」 「ごめんなさい。お店、面白くって」  笑いながら近づいてきたエヴァ姉上は、小さな頃の愛称のまま僕を呼ぶ。今「エッツィ」なんて僕を呼ぶ人はこの人以外にいない。  そんな姉上の側には、知らないエルフの男の人がいる。とても優しい穏やかな顔をしていて、姉上を見守っている。だから分かった。姉上も今、とても幸せだって。 「エッツェル」 「フランシェ姉上」 「ネタ、ちょうだい」 「……」  直ぐ上の姉上は、ちょっと変わっている。  職業は作家。母上と父上の馴れ初めや、他の兄弟達や屋敷の人達の話を聞いて、それを小説にしている。これが売れているのだ。そして、取材以外では外出をあまりしない引きこもりでもある。 「ネタって…」 「あんた、今魔人族の都にいるんでしょ。それにそちらの彼も、魔人族のイケメンじゃない」  フランシェ姉上がグランを指して言う。それに、他の兄弟もグランを見た。  グランが、少し引いた。僕にとっては兄弟だけれど、グランにしたら初対面の人。怖いのかもしれないし、緊張しているのかもしれない。  僕はグランの横に並んで、その手を引いて兄弟達の所に向かった。 「エッツェル、そちらは?」  ロアール兄上がグランを見る。兄上は僕の兄だけれど、母上似の僕とは違って父上の精悍さを持っている。ちょっと印象が違うし、長身で軍人だから威圧感もあるかもしれない。  僕が間を取り持たないと。思っていたけれど、それよりも前にグランが落ち着いた声を発した。 「魔人族の王、アルファードの子でグランレイと申します。エッツェルとは、仲良くさせてもらっています。どうぞ、お見知りおき下さい」  声は硬かった。ほんの少し、手が震えていた。けれど言えたのだ。厳格な雰囲気に緊張していたグランが、ちゃんと。  僕は嬉しくて笑った。大丈夫、やっぱりグランは強いんだ。トラウマなんかに負けはしない。今までしてきた練習や訓練は、ちゃんと実ったんだ。  グランも、ほっとした顔をしている。そして僕を見て、嬉しそうに笑った。 「こちらこそ、弟が世話になっている。黒竜王ユーリスが子、ロアールと申します。こちらは妹のエヴァと、フランシェ。この度はようこそお越し下さいました」  珍しくロアール兄上も王子の顔をして挨拶している。わりと自由な人だけれど、これでも国の王子なんだって、今更ながら思う。  僕は、出来るだろうか。黒龍王家の王子として、そしてグランの隣りに並ぶ者としての振る舞いが。  少し不安になる。けれど、出来ると信じていないと出来ない気がする。僕も、ちゃんと変わらないといけないんだ。

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