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【日常】エッツェル留学記9(5)
その後、戴冠の儀式は厳かに行われた。
祖父殿から王の冠と杖を受け取る父上と、その隣で祖母殿からティアラを受ける母上。その二人が前に出て、挨拶をする。
次に王太子の任命式で、シーグル兄上が父上から冠を受けた。
その後のパーティーで、僕はシーグル兄上にグランを紹介し、グランも少し話せた。少し自信がついたのか、案外穏やかな表情に安心した。
けれど父上と母上にはなかなか近づけなくて困っていると、今夜家族だけ親睦会があると伝えられた。ちゃんと分かってくれていたみたいで、僕もグランも安心した。
その夜、少し疲れた様子のシーグル兄上は先に休むと僕に挨拶をして、グランには「また来てくれ。歓迎する」と伝えて引っ込んだ。やっぱり、とても悩んでいるっぽかった。
家族用の談話室には、姉上二人とロアール兄上、そしてシエル様と母上、父上がいた。
「エッツェル」
「母上!」
立ち上がって駆けてくる母上を僕は抱きしめる。人族の母上は今では僕よりも小さい。でもいつまでも、綺麗で可愛い大好きな母上だ。
「留学中の話、シキさんから聞いてる。頑張ってるんだね」
「うん、母上」
「ハロルドさんも心配していたよ。ちゃんと、謝りに行ったんだって?」
「あの、それは……」
完全に言いつけを破ったのが、バレていた。僕の目は泳いでいたけれど、次に母上は僕の頭を撫でて優しく微笑んでくれていた。
「頑張ったんだね」
「…うん、母上」
母上はいつも、僕の頑張りを見てくれる。僕の事を褒めてくれる。僕の大好きな母上だ。
父上も隣りに並んで、僕を見て頷き、隣のグランをしっかりと見た。
「グランレイ、エッツェルが世話になっている。君の母君であるシキとは、俺も面識がある。彼から君の話も聞いている。歓迎しよう」
「感謝いたします、陛下」
「陛下は止めてくれ、まだ慣れない。それに、他人行儀にしなくてもいいんだ」
柔らかく笑う父上が、僕の頭を撫でる。大きな手に、僕はとても心地がよかった。
「さて、家族の場だが二人紹介しなければならない。一人はシエル、おいで」
父上に呼ばれて、黄金竜ガロン様の子、シエルベート様が進み出る。隣にはロアール兄上も並んでいる。
ロアール兄上はずっとシエル様の事が好きだった。小さな頃に一目惚れして、それからだって。僕も応援していた。なんか、人事じゃなかったから。
「この度、ロアールが黄金竜の所に嫁ぐこととなった。今日はいい機会だからな、紹介しておこう」
驚いた僕はロアール兄上を見た。兄上は少し恥ずかしそうにしている。そしてシエル様も、色の白い頬を染めている。
「良かったじゃない、ロアール兄上」
「有り難う、エヴァ」
「ネタください、兄上」
「お前は本当にいつもそれだよな、フランシェ」
呆れたように言うロアール兄上は、それでも幸せそうに笑っている。
すると僕たちの所に向かって、シエル様が進み出る。そして、僕の前に来てにっこりと笑った。
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