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【R18】寡黙な騎士をこの手に抱いて(1)

 そいつが初めて俺の近衛として紹介されたのは、150を超えた位だった。 「お初にお目にかかります、シーグル様。本日より近衛として着任しました。ルーセンスです」  燃えるように赤い髪、赤い瞳の男は俺よりもずっと年が上だった。聞けば赤竜の騎士の家に生まれた者で、縁あってここにきたそうだ。  俺は丁度父の仕事を手伝い始める頃で、何かと忙しくなりそうだった。だからだろう、この年上の男を頼もしく思ったのは。 「よろしく頼む、ルーセンス」  握手を求めて歩み寄れば、奴は恐縮したように堅くなり、ぎこちなく笑う。そのあまりの実直さと真面目さに、俺の方が少し驚いた。  そして同時に、思ってしまったのだ。コイツは、面白いんじゃないかと。  祖父殿が引退し、父が王位を継ぐことが決まり、ここ王太子宮は慌ただしくなった。  居城を移すにあたり物の移動などが必要になっている。それでも大半のスタッフはここに居残る事となった。ついていくのは父の側近と母付きのメイド一人だ。 「騒がしくてすまないな、シーグル」 「構いません、父上」  俺の対面に座る父ユーリスは未だに若々しい気力と雄々しさがある。この先何百年と、この黒龍の国は安泰だろう。  何より母上が頑張って沢山の子を残してくれるから、血が途絶えるなんてことはない。  そして今後は、俺達が頑張らねばならないだろう。 「国王即位と、王太子就任を同時に行う。王都に来てもらう事になるが、構わないな」 「勿論、そのつもりです。弟や妹も来るのですか?」 「あぁ、勿論だ。数日後には揃う」  俺の兄弟達は今ではこの王太子宮にいない奴がいる。  直ぐ下のロアールはまだ軍にいるが、婚約者の黄金竜シエルの所を行ったり来たり。  長女のエヴァは王都で母の祖父母とスイーツショップを開いている。人気らしい。  一番下の弟エッツェルは問題を起こして魔人族の国に留学している。  この屋敷に安定的にいるのは俺と、次女のフランシェだけだ。 「ここも、寂しくなるな」  懐かしそうにあたりを見回す父の姿は、本当に感慨深げだ。  俺も同じように見てしまう。兄弟達と過ごしたこの屋敷は常に騒がしく、人の出入りも激しかった。大きくなった今でも騒々しいのだが、これからは静かになるだろう。 「寂しくなりますね」  言えば父は申し訳なさそうに笑い、一つ頷く。俺もそれを見つめて、静かに茶を飲み込んだ。  王太子の仕事というのは父のサポートの他に、客人との会食というのが多い。昼食会、夕食会が最近増えた。  それというのも王太子就任に伴い、俺に自分の子を娶せたい輩が増えたからだ。  まったく、迷惑な事だがそんなのはおくびにも出さない。今日もにこやかな顔で国の大臣家族を迎えての昼食会をしている。 「それにしても、シーグル様は本当に聡明でお美しく育ちましたな。貴方の誕生パレードがつい昨日のように思えますが」 「そのように小さな頃は流石に。多少、恥ずかしくもあります」  退屈な会話だ。俺の機嫌を取りたいのだろうが、そんな覚えてもいない頃の話をしてなんになる。それとも、自分はそんな幼い頃から俺を見知って覚えていたとでもいいたいのか。 「あんなに小さかったシーグル様も、今では280と立派な青年となりまして。いや、年を取るはずです」 「なんの、大臣はまだ若々しくいらっしゃる」  さっさと引退して次に引き継げ。下が支えて仕方がない。 「うちの娘も今年で200を超えて、そろそろ良い相手などいないかと、探しているのですよ」  俺はチラリと、大臣の隣にいる女性に目を向ける。少し恥ずかしそうにする娘は亜麻色の髪に柔らかな印象がある。確かに穏やかそうな女性だ。だが、俺はそこに魅力を感じない。 「お美しい姫君です。きっと、良縁に恵まれますよ」 「そのようにお思いになりますか!」 「えぇ、勿論」  一般論だ、食いつくな。  俺はチラリと斜め後ろに視線を向ける。  俺の近衛騎士であるルーセンスは、真面目くさった顔で真っ直ぐに周囲にも気を配っている。その赤い瞳が俺を見る事はない。  まったく、つまらない。こんな会話を聞いてどんな顔をするか、少し楽しみだったのに。 「シーグル様は、どなたか思い人はいらっしゃるのですか?」  問われ、俺は少し考える。そして、斜め後ろを気にしながらもたっぷりの笑顔を大臣に向けた。 「多少、気にしている者はおりますよ」  言えば、背後で気配が揺らぐ。とりあえずは合格か。あえてルーセンスを見ないまま、俺は気配だけを探る。動揺が分かる、その気配を。

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