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【R18】寡黙な騎士をこの手に抱いて(2)

 会食後、俺は私室に戻った。  背後からついてきたルーセンスは、さっきから言葉がない。部屋に入り、振り返る。なんとも言えないしょぼくれた顔に、俺は満足だ。 「どうした?」 「いえ」 「俺の思い人がいることが、意外か?」  問えば気配が揺れる。無表情め、もう少し感情を出せ。そうじゃないと面白くないだろ。  丁寧に頭を下げたルーセンスは困ったように目尻を下げる。精悍な顔立ちが、僅かに辛そうにしている。 「いえ、そのような事は思いません。シーグル様は男女ともに人気がありますから」 「ほぉ、人気があるか?」 「勿論です」  言いながら、浮かない顔をする。ルーセンスのそういう表情は憂いもあって色気を感じる。  歩み寄り、正面から見据える。ほんの少し高い長身を見つめれば、顔を背けられる。恥ずかしそうにするあたり、コイツは可愛い。 「浮かない顔だな。俺に人気があって、お前は都合が悪いか?」 「そんなことはありません」 「では、どうしてそんな顔をする」  問えば困ったように顔が上がらない。俺は見つめている、逃げを許さないように。早く認めればいいのに、コイツは決して認めない。俺はそこが気に入らない。 「申し訳ありません」 「…もういい」  俺に男女の影があれば、コイツは辛そうな顔をする。ほぼ無表情がほんの僅か形を変えるのを、俺は知っている。お前を長く見てきたんだ、分からないはずがない。ほんの少しの変化でお前の心中を察せられるくらいには、俺はお前を見てきた。  つまらない。この男は、俺を欲しているだろう。俺に触れたいだろう。真面目に俺の護衛だけをして、嫌な事も言わずにいいなりになって、律儀にしている。抗えばいいのに、そうはしない。俺はお前の我が儘も、抵抗も許しているというのに。 「今夜は青竜の国の外交官と会食がある。それまでは執務と休憩だ」 「畏まりました」  バカ丁寧に頭を下げたルーセンスが頭を下げてさがる。その背を見ながら、俺は重く溜息をついた。  最初は、どこからだったか。  初めて会った時、コイツは面白いと思った。俺を前にして緊張し、それでもにこやかに笑おうとして失敗していた。その間抜けな顔を見た時に、俺はコイツが他にどんな顔をするか、それを見てみたいと思った。  わざと困らせてみた事もある。やんちゃもしてみた。甘えて見せたこともある。その全部にコイツは困った顔をしながら、淡々と職務をまっとうした。  案外面白くない。そう思ったが、俺が他の者と遊ぶようになって変わった。興味本位に男を誘い、体を重ねたその事後処理をしたとき、コイツは初めて苦しそうな顔をした。  俺は、その顔がまた見たかった。だから何度かそうして遊んだ。  勿論相手も遊びと分かっての事、騒ぐことはない。それでもルーセンスは苦しそうにする。それを見ると、俺は何かが満たされた。  自分でも歪んでいると思う。もう少し大人になって、それは止めた。正直若気の至りで終われる年齢の間じゃなければ許されないだろう。それでも俺はルーセンスを見ていた。見ていたかった。  次にはアンテロから怪しげな玩具を買い、それをルーセンスに使ってみることにした。  勿論、あいつに伽の職務はない。俺もあいつを裸にする事はしなかった。服の上から「新しい玩具を仕入れたから試させろ」と言って、素股のまねごとは何度かさせた。  顔を真っ赤にして身もだえるあいつを見るのは楽しかったのだが、同時に俺も疼いて困った。  俺はどうやら、この年上の無表情で生真面目な男を性的に見ているらしい。  冷静にそれを感じ、何かを納得した。  淡々と処理をされる事に不満を感じたのは、仕事を感じてだったのだろう。  事後処理をさせた時に苦しそうなのを見て満たされたのは、どんなものでもあいつの感情が俺に動いたからだ。  愛情深い両親に育てられたのに、俺の愛情は歪んでいる。俺はあいつが欲しいが、どうやって手に入れればいいか分からない。  だから、釣りをしている。誘う様にあいつに触れて、仕事の顔をして、揺さぶりをかけて出方を見ている。  あいつを見ればまんざらでは無いのだと分かった。だからあいつが俺を欲しがるまで、俺はこうして続けている。あいつが俺を、欲してくれるように。

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