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【R18】寡黙な騎士をこの手に抱いて(3)

 それから数日後、俺は王都の城にいた。  父が祖父殿から王冠と杖を受け取り、母が祖母からティアラを受け取る。そうして玉座に着いた父から、俺は王太子の勲章を受け取った。  兄弟もみなが揃っての儀式に、どこか誇らしい気持ちにもなり背が伸びた。  お披露目のパーティーは華やかだが肩が凝る。それでも真っ先に駆け寄ってきた兄弟の顔を見ると、俺も楽しかった。 「兄上、おめでとう!」 「シーグル様、おめでとうございます」  そう言って真っ先に駆けてきたのは直ぐ下の弟ロアールと、その婚約者であるシエルベートだ。  弟ロアールは既に嫁ぐ事が決まり、その日程を本人達が先送りにしている。昔から仲の良かった二人がこういう関係になるのは、当然に思えた。 「有り難う、二人とも」  にこやかに返すと、二人は笑って律儀に礼をしていく。次の行事はきっと、こいつらの結婚式だろうな。 「兄上!」  続いて駆けてきたのは長女のエヴァだ。女性にしてはなかなかの長身で、意外と逞しい体をした妹の後ろから、知らない男がゆったりと近づいてくる。クリーム色の髪に尖った耳から、直ぐにエルフだと分かった。 「エヴァ、息災なようだな」 「勿論よ、兄上」 「そちらは?」  問えば背後のエルフは丁寧に礼を取る。 「私の恋人でルーグ。王都で彫金の仕事をしているのよ」 「初めまして、王太子殿下。ルーグと申します」 「シーグルだ。エヴァが世話になっている。じゃじゃ馬な妹の相手は大変だろ?」 「もぉ、兄上!」  腰に手を当ててぷんと頬を膨らませるエヴァはこれで十分に美人だ。気の強さも魅力に見える。  ルーグと名乗ったエルフの男はその様子を楽しそうに笑う。実に品良く穏やかで落ち着いた様子に、俺は安堵した。  どうやら、このままのエヴァを愛してくれる奇特な人物のようだ。 「実に楽しく明るい日々を送らせていただいています」 「そのようだ。エヴァ、良かったな」 「勿論よ!」  ニコニコと楽しそうな妹達が去れば、一番賑やかなのがこちらへと走ってくる。 「シーグル兄上! おめでと!」 「エッツェル」  騒がしい末の弟はもう少し落ち着いてもらいたい。だが、それもコイツの魅力か。何にしても明るく素直でバカがつくような弟は、一番母の人懐っこさを引き継いでいる。  ただやはり、考え無しでもあるが。 「おめでとう兄上」 「あぁ、有り難う。お前は今魔人族の国にいるんだろ? 何をしているんだ?」 「あぁ、あの、それは!」  何やらアタフタしているエッツェルの視線が、とある方向へと流れる。そこにはこの場では目立つ男が立っていた。  流れるような黒髪に、金色の羊のような角は二重に巻いて頭の側面にある。顔立ちは端正で色気がある。明らかに魔人族だ。  目立たぬように近づいてこなかったのだろう男は俺の視線に気づくと苦笑して歩み寄り、とても丁寧に頭を下げた。 「初めまして、王太子殿下。アルファードが子、グランレイと申します。現在、エッツェル殿下と親しくさせて頂いています」  アルファードというのは黄昏の国の王だ。と言うことは、コイツは王子にあたる。そして母の友人であるシキ様の子だ。 「こちらこそ、エッツェルが世話になっている。大変だろう?」  言えば、グランレイは僅かに片眉を上げてエッツェルを見る。その目に色気があり、同時に見守るような温かさもある。なるほど、似合いだ。 「大変楽しい時間を過ごさせて頂いております」 「ならば安心だ。大変になったら叱ってやってくれ。これで素直だから、叱れば反省する」 「ご教授、有り難うございます」  優雅に丁寧に礼をするグランレイに俺は笑い、去っていく二人の背を見た。  どうやら俺の知らない場所で、兄弟達にはいい出会いがあったようだ。それにくらべ、俺は一体なのをしているのだろうな。

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