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【イカレ竜・後日談】もふもふ王国への野望(12)
アンテロがゾルアースへと行って、一ヶ月半。俺は珍しく魔法便を受け取った。
「魔法便っすか?」
「アンテロからだ」
中を開いて確かめた俺は、その時点であのクソガキを殴りたくなった。
「あっ、あの、どうしたっすか? なんか、問題が……」
「今すぐ部屋を四つ整えて、食事の用意しろ! ランセルは今日何時に戻る!」
「アイサー! ランセル様は夕方に戻ると…」
「もう少し早く仕事切り上げろ!」
俺は怯えるハリスに城の人間を集めて部屋を四つ整え、医師を呼び、ランセルの執務を切り上げさせ、料理長に緊急の食事会をすることを伝えた。
アンテロからの手紙には、こうあったのだ。
『母様
ゾルアースで四人の素敵な妻を娶ったよ。
準備ができたから、今日のお茶の時間くらいにそっちに戻るね。
ちなみに、中の一人は身重だからよろしく。
アンテロ』
本当に、殴り倒したうえに足蹴にしたい気分だった。
予定通りの時間に、城の前庭に雄大な緑龍が降り立った。赤竜、黄金竜とは違い、緑龍はシャープでしなやかな感じがある。
アンテロも例に漏れず、しなやかな肢体に長い首を持つ翡翠色の竜だ。
それが前庭に降り立ち、そっと俺の前に手を広げる。そこからは、四人の獣人がそっと降りて来た。
一人は白いロップイヤー兎。長身だがしとやかな印象を受ける青年だ。
その側では大きな耳、おそらくコーギー種の少年だった。明るく、好奇心が見える。
全体を整えているのは、グレーの狼族の青年だ。体躯からも、おそらく軍籍にいたのだろう。
そしてそんな彼らに気遣われながら降りて来たのは、紛れもなく黒ヒョウの青年だった。
その姿を見て、俺は僅かに胸が痛んだ。丸い黒い耳、よく見ればヒョウ族特有の模様もある。俺が知っている黒ヒョウは、たった一人。俺を信じ、俺を慕ってくれた側近の姿だった。
彼は大きな緑色の瞳を俺に止める。そして、ビクリと足を止めた。
それはほぼ全員が同じ反応だ。俺は険しい顔でもしていたのか?
「母様、わざわざ出迎えてくれたの?」
竜身から人身へと戻ったアンテロが、まったく悪びれる様子もなく全員の前に出て俺の前に立つ。そんなアホ息子を…俺は拳骨一発で沈めた。
「「!!」」
「こ……っのぉぉぉっ、アホ息子が!!」
「えー!」
「こういう事は真っ先に連絡しろ! 部屋の準備なり食事なり人なり日程なり、こっちにも準備があるんだぞ! それがなんだ、お前は! プチ旅行から帰った気分か!」
「だって、忙しかったし、疲れたから…。それに、母様ならきっちりやるだろうなって」
「そういう事を言っているんじゃない、馬鹿息子!」
あぁ、無性に踏みつけたい。最近こいつが微妙にランセルに似て見える。行動の唐突さと理由を語らない部分か。イラッとする部分が似たもんだ。
「しかも身重の妻を竜化で連れてくるな! 体に障ったらどうする!」
「え?」
「お前ら竜の急激な上昇と降下は体にも負担がかるんだぞ!」
言えばハタと気づいて、アンテロは慌てて中の一人、黒ヒョウの彼に近づいていく。そして、あれこれ体調に変化がないかを気にしていた。
その様子を見れば、溜飲も下がるってものだ。気遣いはザルだが、思いやる事は出来ているらしい。
俺は溜息と一緒にこみ上げる怒りを吐き出し、ゆっくりと近づいていった。
「驚かせてすまない。四人とも、歓迎しよう。細かな事は中で、そちらの彼はまずは医者の診察を受ける方がいい。慣れない移動だ、意外と疲れているだろう」
穏やかに視線を緩めれば、四人の緊張も和らいだようで笑みが見られた。
俺は黒ヒョウの青年に近づいて、そっと手を引く。そうして彼はまず別室に。他の三人とアホ息子は談話室へと招いた。
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