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【イカレ竜・後日談】もふもふ王国への野望(14)
その夜、外が薄く闇を纏う頃に、俺達は全員が揃って小さな会場にいた。ソファーやテーブルを用意はしたが、基本は立食とした。思い思いに過ごす為に。
俺の隣にランセルが立ち、その側にイヴァンとハリス。そして、姿勢のいい騎士の後ろに隠れる娘のジュディスがいる。
アンテロに招かれた四人はまだ緊張した面持ちで立った。そこに、一応は家長としてランセルが前に出た。
「ようこそ、四人とも。私は父のランセルと申します。それにしても、本当にアンテロで良かったのですか? 先に言いますが、なかなかアレですよ?」
「父様…」
アンテロがなんとも言えない顔をして肩を落とす。それにランセルは意地悪な笑みを浮かべていた。
こいつらしい気の外し方だ。だが、こいつはこれでいいんだろう。昔からこんなもんだ。
「まぁ、冗談ですけれどね。歓迎します、四人とも。ふつつかな息子ではありますが、どうか末永く面倒をみてあげてくださいね」
大人の、親の対応で軽く頭を下げたランセルは昔に比べて落ち着いた。王という責務もあるのだろうし、年齢的な部分もある。俺に対してだけは、未だに子供のような馬鹿とド変態ぶりだが。
「四人とも、息子達を紹介する。まずは次男のイヴァンと、その恋人のハリス」
「こんばんは、お姉さん達。アンテロ兄様の弟で、イヴァンと申します。隣は恋人のハリス。既に日中、紹介はされていると聞きますが」
「改めて、よろしくっす」
軍人ということもあり、アンテロよりも背が高く体格のいいイヴァン。だがどちらかと言えばその隣でにこにこしているハリスに驚いたのだろう。目が丸くなっているのが何よりの証拠だ。
「次は娘なんだが…」
俺はチラリとジュディスを見る。金髪騎士の背後に隠れ、顔半分を出してこちらを伺うジュディスは既に一杯な感じに赤くなっている。
娘ジュディスは極度の恥ずかしがり屋だ。慣れた相手や家族には普通に接するが、初対面の相手にはこんな感じ。しかも引きこもりだ。正直に言えば、この場に引っ張ってきただけで金髪騎士には感謝だ。
彼女が壁に使っている金髪の騎士は、名をルークと言う。顎辺りまでの金髪に、涼やかな緑の瞳の騎士だ。もう100年ほど、娘ジュディスの護衛についてくれている。
ジュディスはこの青年を気に入っているのか、比較的言うことを聞いてくれる。全幅の信頼を置いているのだろう、彼が「姫様は必ずこのルークがお守りします」とニッコリ言えばどうにか表に出てくるのだ。
「ジュディス様、新しいお姉様達ですよ。ご挨拶なさってください」
ルークが優しく気遣いながら伝えると、彼の腕を強く掴みながらもジュディスは体を四人の方へと見せる。
長い翡翠色の髪に、大きなエメラルドの瞳。柔らかな輪郭に、幼さの残る顔立ちの彼女は、白い肌を桃色に染めて小さく頭を下げた。
「ジュディス…です」
…まぁ、精一杯だろう。
「すまない、少し恥ずかしがり屋なんだ。慣れれば普通に話が出来ると思う」
「あぁ、いいえ」
キャロルがにっこりと微笑み、一歩前に出る。そして、ジュディスの前に進み出て、身を低くした。
「初めまして、ジュディス様。キャロルと申します。仲良くしてくださいね」
青い瞳を緩めて微笑むキャロルに、ジュディスは目を丸くし……なんか真っ赤になってるな。そして手を伸ばして…あろう事か兎耳をふにふにした。
「!」
「やわらかい」
ふわふわっと笑ったジュディスが、周囲の固まり具合をハッと見回し、次には脱兎のごとく逃げていく。その早い事と言ったら……逃げられた。
「すまないキャロル、ジュディスが…」
「あっ、いいえ! 平気ですよ」
驚いたらしいキャロルに声をかけるが、本当に気にはしていないようだった。むしろゆるゆると微笑むくらいだった。
「なんだか、人事じゃなくて」
「ん?」
「ボクも、気持ちが分かります。ボクも小さな時、周りの目が怖くて引きこもっていました。ゼノンが引っ張り出してくれなかったら、今も引きこもっていました」
明るい顔でゼノンを見るキャロルに、ゼノンは少し照れたような顔をする。その横では、アンリがゼノンの脇をこついている。
「あの、グラース様」
「ん?」
「姫様の気分が良い日に、またお話させてください」
「あぁ、俺からも頼む」
お日様のようにふわふわと微笑むキャロルを、俺は頼もしく見ていた。
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