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【日常】引きこもり姫と新緑の騎士

 私、ルーク・マクドネルがランセル様の末の姫君、ジュディス様の護衛兼側近となったのは、180歳を過ぎたくらい。軍に入って10年位を過ごした頃だった。 「え? あの、申し訳ありませんがもう一度お願いいたします」  軍の総指揮をしているグラース様に呼ばれ、私は緊張したまま総司令室へと赴いた。そして伝えられた事に驚いて、間抜けにも問い返してしまったのだ。 「お前に俺の末娘、ジュディスの護衛兼側近を頼みたい」  同じ事を繰り返す人を凝視したまま、私は必死に色々な事を展開した。  そもそも、王族の護衛なんて重要な任務を受ける程の活躍を私はしていない。入隊10年目だ、竜人のなかでは駆け出しもいい所だろう。そんな私に、何故? 「あの、お言葉ではありますがグラース様。私は選ばれた理由はなんでしょうか? 正直に申しまして、不相応なものに思えます」  正直な事を言えば、グラース様は静かに頷いた。 「娘のジュディスは、引きこもりがちなんだ」 「はぁ」  それは聞いた事がある。王太子であるランセル様一家はこの王太子宮で生活している。緑竜軍宿舎は隣接した敷地内にあるので、当然の様にご家族の話は入ってくる。  末娘のジュディス様はとても恥ずかしがり屋な性格で、特に男性に対しては苦手意識をお持ちだ。ご家族や慣れた相手、長年仕えているメイド長には自然な姿を見せているが、そうでなければまともに接する事ができないらしい。  グラース様は気疲れしたような深い溜息をつく。  この方もなかなか大変だ。長男のアンテロ様は少々難しい方で、謎が多い。次男のイヴァン様は気さくで明るく穏やかで人気がある。何よりランセル様が特殊な感じの方なので、まっとうなこの方の苦労は底知れない。 「そのジュディスも今年で120歳だ。そろそろ甘やかしてもいられない。何より今まで側についていたイヴァンも来年には軍に正式入隊する。そこで、正式な護衛を付ける事にした」 「あの、ですから……」 「お前の成績を見せてもらった。おおむね「優」がつく。品行方正で物腰が柔らかいという評価も得ている。なにより見た目が受け入れやすいだろう」  それはほんの少し、私のプライドに引っかかった。  昔からの評価だ。礼儀正しい綺麗なお人形。私は見た目、他人に圧迫感を与えない。長身であるものの細く、柔らかな金髪に顔立ちも女性的な印象を与える。だが私は、それが嫌いなのだ。  表情に出ていたのか、グラース様が僅かに笑う。鋭さのあるそれはこの方を妙に魅力的に見せる。 「容姿を言われるのは、不満か?」 「いえ、そのような事は…」 「安心しろ、容姿の事は二の次だ。それに、この話はまだ仮だからな」 「仮?」 「まずは一週間、ジュディスと会話出来るかを見る。それができれば、次は一ヶ月。ジュディスがお前の前に姿を現すか。難題だぞ?」  挑発的なその表情と言葉に、私は密かにプライドを刺激されたのだった。

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