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【日常】引きこもり姫と新緑の騎士(3)

「ジュディス様は、どのようなお姿なのですか?」 「綺麗だよ。ただ、父様に似たんです。翡翠色の髪に、エメラルドグリーンの瞳で、色が白くて」 「あぁ、なるほど」  確かにそれは、一人だけ容姿が違っただろう。  長子アンテロ様も、次子イヴァン様も銀色の髪をしている。これは母君であるグラース様の色を継いだ。  だが、ジュディス様だけが父君であるランセル様に似た。ランセル様だって決して醜い容姿はしていない。それどころかかなりの綺麗どころだ。むしろ女児であるなら、野性味と男の色気のあるグラース様よりは、知的で穏やかなランセル様の美を継いだ方が美しいだろう。  そこがネックになってしまうだなんて。 「少しでも話が出来るといいのですが」 「人前に出て、否定される事に恐怖を感じているので難しいです」 「今日も声をかけて応答がなくなったので、しばらく扉の前にいたのですがその後離れてきました。正直これでは…」 「そうですよね」  考えるが、妙案が浮かばない。そうして少し考えて、まずはジュディス様の事を知るのが大事だと考えた。 「ジュディス様は、何がお好きですか?」 「動物です」  即答だった。 「母様が獣人ですから、小さな頃から動物は好きです。ですが、飼うことはしていません」 「何故ですか?」 「自分よりも先に死んでしまうから、可哀想だと」  そういう弱さもあるのか。  考えて、ふと私は妙案を思いついた。それは、私の特殊な生い立ちからだった。  翌日、私はもう一度ジュディス様の部屋の扉を叩いた。中で気配がする。私はほんの数センチ扉を開けて、そこから右手を差し出した。 「こんにちは、初めましてジュディス様。私はルークと言います。ジュディス様とお友達になりにきました」  声は少し高めに、作ったように。すると明らかに気配が近づいて、右手に触れる気配があった。 「うさぎさん」  愛らしい声がふわっと笑うようにしている。その声に、私は安堵した。  私の右手には愛らしいうさぎのパペットがある。私は自分の姿を扉から見えないように隠し、声を高めに作って兎のパペットで話しかけていた。  思いだしたのだ、孤児として教会で育った私は小さな子供達に語りかける時、こんな風にしていたのを。  孤児というのは最初、不安定な子が多い。理由は様々あるが、大抵は親と死に別れている事が多い。だから、初めての場所では不安から眠れなかったり、怯えて出てこられなかったりする。そうした子に接するとき、人形を媒体に話しかけると意外と応じてくれるのだ。  ジュディス様はうさぎのパペットに触れて、嬉しそうに笑っている。私はその気配だけを感じて、手を差し伸べた。 「ジュディス様は何が好きですか? 私は、温かい日のひなたぼっこと、温かい紅茶が好きです」  応じてくれるだろうか。会話は成立するだろうか。密かに心臓がドキドキと音を立てている。  けれど直ぐに、その不安は解消された。 「私は苺のタルトと、かすみ草と、動物さんが好き。うさちゃん、お友達になってくれるの?」 「勿論です! 苺のタルト、美味しいですね。私は、シロツメクサが好きですよ」 「シロツメクサ?」 「小さな白いお花です。そうだ、プレゼントしますよ」 「ほんと! 嬉しい」  クスクスと笑う愛らしい声が、楽しそうにしてくれる。姿は見えなくても、その様子だけで心の中がほっこりと温かくなっていく。  ほんの少しの会話を終えて、私は宿舎裏の草原へと出かけた。そして今、シロツメクサの冠を作っている。うさぎのルークの分と、ジュディス様の為に。これをもってお茶に誘ったら、彼女は応じてくれるだろうか。それが今から、楽しみです。

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