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【日常】新緑の騎士の奮闘記(1)

 扉越しの会話から数日、私は相変わらず扉の前でジュディス様に接している。  これを見た他の人からは引かれたけれど、そんな事は気にしていない。これは大事な、私とジュディス様のコミュニケーションだ。  そんなある日、いつものように扉の前に立ってドアを叩く。来たことを知らせる合図のようなもので、私はいつもと同じように数センチドアを開けようと手をかけた。  だがそれよりも前に、ドアは内側から開いて、ひょっこりと一人の少女が顔を出した。 「!」  とても美しい少女だった。今年120歳、見た目には16歳程度の少女が不安そうな顔をしてこちらを見上げている。  その瞳は縦に大きなエメラルドグリーン、長い髪は翡翠色をしている。ふっくらとした頬の丸みは女性よりは少女の愛らしさがあり、小さな口元は薄桃色でふっくらとしている。  この顔立ちは全く想像していなかった。イヴァン様やアンテロ様がグラース様に似ているのは知っていた。噂によれはランセル様に面立ちが似ているのは聞いていた。だが…。 「ルーク?」 「え? はい!」 「!」  緊張に少し声が大きくなってしまう。途端にエメラルドの瞳が怯えたようになり、手が引っ込みそうになる。  私は慌てて数度深く息を吸って、自身を落ち着かせた。 「ジュディス様、ですか?」  少女はコクンと頷く。そして、私の右手にあるうさちゃんを見てふわりと笑った。 「うさぎのルークも、こんにちは」  どこか儚く、ふわりと笑うその表情の愛らしさ。それは幼くすらある。  途端、不安になった。まるで小さな子供達を案ずる兄のように、この少女を庇護の対象として見てしまいそうだった。 「今日、うさぎのルークをお茶に誘いたいの。ルーク、いい?」  少し拙く、どこか不安げに。そんな心情までもが見えそうな揺れる瞳を見つめながら、私は穏やかに微笑んで軽く一礼した。 「私でよろしければ、いつでもお付き合い致します」  言えばジュディス様は花も綻ぶような可憐な笑みを見せてくれた。  距離を少し置いて、私はジュディス様の部屋に初めて踏み入った。  部屋の中は可愛らしい物で溢れている。白い小さなテーブルセット、ぬいぐるみを置いた長椅子、レースのついたベッドカバー、ハートの形をしたクッション。茶器も白磁に愛らしい兎の染め付けがされたものだ。 「はい、どうぞ」 「有り難うございます」  まるでままごとのようにもてなされて、これでいいのかと疑問に思うもそのままに、私は出されたお茶を手に取った。側には小さなケーキやフルーツを乗せた三段のケーキスタンドがある。 「ジュディス様は、兎がお好きですか?」  正面からは少しずれて座ったジュディス様が、頬をほんのりと染めて頷く。どこか嬉しそうに。 「動物は好き。母様の耳や尻尾、ふわふわで好きだから」 「ぬいぐるみもお好きなのですね」 「アンテロ兄様がくれるの。外にお仕事に行くから」  長子であるアンテロ様は軍に在籍しているものの荒事にはあまり参加せず、外交役として他国へと赴き、交渉ごとをしていると聞く。人当たりがよく物怖じせず、何かと口の上手い方なのだそうだ。 「ルークも、動物好き?」 「勿論ですよ。私は猫が好きです」 「猫! 私も好き」  嬉しそうにフワフワ笑うジュディス様は、少し慣れてきたのか顔を上げるようになった。僅かに紅潮した様子は、愛らしく素直だ。 「毎日、うさぎのルークが来てくれて、私楽しかったの。だからね、お茶に誘いたいって母様に相談したら、うさぎのルークはお茶を飲むと汚れてしまうって言われて」  まぁ、ぬいぐるみなので。  ジュディス様は少し沈んだ顔をする。当然この年なのだから、ぬいぐるみがお茶を飲む事は不可能だと理解はしているだろう。それを証拠に、こうして誘ってくださったのだから。

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