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【日常】新緑の騎士の奮闘記(2)
「勇気を出して、ルークをお誘いしなさいっていわれたの。怖くないって」
「ジュディス様」
「私も怖いなんて思ってないのよ。ルークはうさぎのルークと同じだもの。優しくて、楽しくて、大きな温かい手をしたルークだもの。でも私……恥ずかしくて。ごめんなさい、ずっとお部屋の中で」
ションボリとうなだれるジュディス様に、私は少し驚いて立ち上がった。途端にビクリと震えたから、私はとてもゆっくりと近づいて、正面にかがみ込んでその手にそっと触れた。
「お誘い頂いて、嬉しいですよ」
「本当?」
「勿論。こうして直接、ジュディス様とお話が出来て嬉しいです。貴方の勇気のおかげです」
エメラルドの瞳がほんの僅か大きくなって、次には本当に嬉しそうに笑ってくれる。
たったこれだけで、私はこの方を心よりお守りする事に躊躇いがなくなる。この方の為なら盾にでも、剣にでもなる覚悟ができた。
それからは毎日、私はジュディス様の部屋で午後の一時を過ごすようになった。ジュディス様はフワフワと笑う事が多くなり、私に対してもあまり警戒しなくなっていった。
甘い物がお好きだと聞いて、街で人気の焼き菓子を差し入れれば嬉しそうにして、その日は一日とてもご機嫌だった。
「ルークは、母様も父様もいないの?」
何かの拍子にそんな話になって、ジュディス様はお茶を飲む手を止めて悲しげな顔をする。それに、私も苦笑して頷いた。
「私の両親は商売をしていましたが、ある日品物を仕入れに行った帰りにモンスターに襲われまして。私はまだ幼く家にいましたので、無事でしたが」
今では朧気になってしまった両親、死に別れたのは私が6歳の時だった。遠方への買い付けの時は近所の人の家に預けられた私は、そのまま一人残されてしまった。
隣人達も流石に私を育てる事は出来ないと困り果て、私は教会で孤児として育てられた。
けれどこれを、私は悲観などしていない。とても楽しい時間だった。両親が買い付けに出ると一人でいる事が多かった私に、初めて同じ年頃の仲間ができたのだ。そして下には、弟や妹もできた。
キュッと手を握るジュディス様が、今にも泣いてしまいそうな顔をする。私は慌てて手を握り返し、ふわりと笑ってみせた。
「悲しいばかりではありませんでしたよ」
「悲しくないの?」
「えぇ。教会で、私は大切に育てられました。同じ年頃の仲間ができて、優しい兄様や姉様が出来て、可愛い弟や妹ができました。育ててくれた教会の方も、厳しく優しい人達です。私は、沢山の兄妹と育ったのですよ」
にっこりと言えば、ジュディス様はパチパチと数度瞬きをして、その後でふわりと笑った。
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