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【日常】新緑の騎士の奮闘記(7)
祭典は滞りなく終わった。今回のイベントはかなり成功したと言える。
それというのも、参加した子供を養子にと言う家庭が多かったのだ。これから教会や国がこの家庭を調査し、何度か希望の子を家族に預けるなどして適性を見てから養子に行くことになる。
竜人族は子が少なかったから、子を大切な国の宝としている。だからこそ、こうしたデリケートな問題に国が率先して関わってくれるのだ。
「あのね、ルーク! 今日はとても楽しかったのよ。私、こんなに外を走ったの初めて」
興奮に頬を上気させたジュディス様が、キラキラと目を輝かせている。
それを見る私も幸せな気持ちになる。迷ったけれどお連れして正解だったと思う。これを機に少しずつ外に出る機会が増えていけば、引きこもりも改善していくかもしれない。そういう希望が見えたのだ。
「よろしゅうございました、ジュディス様」
この方の嬉しそうな笑顔を見れば、一日の疲れも飛ぶというものです。
そろそろ祭典も終わりとなり、子供達も馬車に乗って戻っていく。
私はジュディス様の手洗いの間、残っていた子供達に囲まれていた。
「ルーク、たまには遊びにきてよ」
「つまんない」
「ふふっ、分かっているよ」
子供達の駄々っ子を可愛いと思いながら受けて、私も久しぶりに穏やかな気持ちになる。
「ルーク殿」
突如声がかかり、そちらへと振り向く。見れば緑竜軍の制服を着た隊員が、背筋を伸ばして敬礼をしていた。
「姫様をお城へお連れいたしますが」
「あぁ、私も行く」
「お疲れになったとのことで、直ぐにでもお帰りになりたいと」
隊員の言葉に、妙な引っかかりがある。だが、疲れているのは確かだろう。私は直ぐに馬車の方へと向かおうとした。
「あの、姫様より言付けが」
「なに?」
「子供達と遊んで来ても良いとの事です」
ジュディス様が、本当にそんな事を?
それはおかしい。そもそもこいつはどうしてそんな事をあの方から聞ける? 初対面の相手には全く話すことすら出来ない方だと言うのに。
それを感じた瞬間、私は動いていた。傍らの男の腕を捻り上げ、抵抗されるより前に地面に引き倒す。そのまま背に腕を捻り上げた状態で魔力の鎖で縛り上げ声を上げた。
「ジュディス様の馬車はどこだ!」
その声に他の隊員達も動きを止めた。
だが、その目に猛スピードで走り去る馬車が見えた。みすぼらしいその幌馬車は、人の流れなど無視して進んでいく。
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