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【日常】新緑の騎士の奮闘記(8)

 私は直ぐに追いかけた。馬の手綱を掴み猛然と走り出す。ユニコは力強い歩みで馬車を追いかけていく。 「止まれ!!」  その声も無視して、馬車は人でごったがえす大通りを疾走し、城門を出ていく。  私はそれを追いかけながら、後悔していた。ほんの一瞬でも目を離してしまった自分の馬鹿さ加減に目眩がした。  もしあの方に何かあれば、私は身を切られるような思いだ。  どうか無事で!  その願いだけで、馬車を追い続けた。  やがて馬車は街から離れた森の中へと入っていく。悪路を行くその振動で馬車は激しく揺れている。  その幌の中、身じろぐような翡翠の髪が僅かに見える。エメラルドの瞳が、恐怖に怯えて私を見た。 「姫!!」 「!」  声を張り上げ、馬を寄せる。だがジュディス様は後ろから伸びた腕に羽交い締めにされ、引っ込んだ。逆に私へ突きつけられたのは、至近距離からの矢だった。 「!」  避ける事は叶わない。ならば飛び込むしかない。矢は数十センチの所から放たれ、私の肩へと突き立った。だが私はその腕を引っ込める事はせず、逆に矢を射た人物の腕を引き抜いた。  見るからに身なりの悪い男を車外へと投げ捨て、私は幌に手をかけ飛び移る。するとすぐさま、別の男が操るナイフの一撃が見舞った。どうにか避けるが、切っ先が僅かに顔を掠めていく。足場の悪い馬車の中、私は剣を抜くことすらできずにナイフ男の攻撃を避け続ける他になかった。 「んぅ! んぅぅん!!」  猿ぐつわをされたジュディス様の目に、大粒の涙が浮かんでいる。こんな怖い目に遭わせてしまった。  私は自責の念にかられながらも男の手からナイフをはたき落とし、遠くへと追いやった。これで後は馬車を止められれば…。 「っ!」  突然こみ上げた痛みと熱に、私は視線を下げた。腹部にナイフが埋まる映像に、なんて声を上げればいいか分からない。遅れてこみ上げる錆びたような味が、口いっぱいに溢れた。 「んぅぅぅ!」  体に力が入らない。そのまま前に倒れた私に、ジュディス様が縋り付いた。 「手こずらせる。これだから竜人は面倒だ」  感情のこもらない目がこちらを見下してくる。それでも私は必死に体を起き上がらせ、ジュディス様を守ろうとした。  だが、それは直ぐに男によって阻まれる。刺されたナイフの柄を更に埋め込むように蹴り上げられ、壁際に転がった。 「大人はいらないんだよ、兄さん。この子みたいにまだ子供じゃないと売れないんだ」  売る? ジュディス様を、売ろうというのか。そんな事……。 「くっ!」  竜化して、どうにか。思ってみたが、あまりにせまい。ジュディス様まで巻き込んでしまう。  体に力が入らない。守りたい人を、守る事ができない。  私の目から光が消えそうになっていた。その時だった。

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