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9-悪魔が来たりて愛を囁く

「たったっ助けてーーーー!!!!」 夜の街中で逢魔野千里は随分とガラが悪そうな野良犬と鬼ごっこをしていた。 いや、犬にしては少々大柄だ、狼だろうか? いや、目が三つある狼など、聞いたこともない。 「アレ蛾悪魔界切ッテノ蝶優等生ソルルノ人減ヨメ」 「イケ巣カネーソルルヘノ胎イセトシテイタ憮ッテヤロー是」 千里を追っているのは悪魔界の住人だった。 生臭い息と共に吐かれた台詞内容で察せられる通り、超優秀悪魔ソルルを(ひが)む余り、その人間男嫁千里にあるあるストレスをぶつけにきたようだ。 千里がパチンコから出てきた途端、三つの眼球をひん剥かせて矢鱈長い舌をぶらぶら垂らしながらガウガウ襲ってきた悪魔犬。 産み落とした自分の子供らとは全くの別物だと瞬時に見分けがついた千里。 そこから長-い追いかけっこが始まった。 「なにあれ映画撮影!?」 「すっげー、かっけー、よくできてるー!」 「ちがーーーーう!! 誰かお巡りさんか保健所の人間呼びやがれーーーー!!!!」 自分から交番へ駆け込むにしても止まった瞬間あの獰猛悪魔犬どもに飛び掛られそうな気がして千里はブレーキをかけられずにいた。 悪魔犬は千里に染み着いたソルルの匂いを追っており、人ごみに紛れようと店に入ろうと決して見失わず、邪魔くさい障害物を避け、時にブン投げ、時に噛みつき、通行人の悲鳴でさらに騒々しくなった雑踏を血気盛んに猛然と駆け抜ける。 「……あ!」 狭い路地を必死こいて走っていた千里は凍りついた。 正しく、THE・行き止まり、というやつだ。 顔面蒼白となって勢いよく振り返ればポリバケツに入っていたゴミを盛大に引っ繰り返してガウガウやってくる悪魔犬どもが。 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 やられる、これ絶対やられる、俺多分かなり出血する、そんでけっこー痛い思いする、うわぁぁ、痛いのムリなんですけどーーーー!! 絶体絶命のピンチに立ち竦む千里、そんな非力な彼に悪魔犬どもが飛びかかろうとアスファルトを蹴って跳躍しようとした、その瞬間。 凄まじい咆哮が辺りに轟いた。 空気がビリビリ振動し、悪魔犬どもは飛び出そうなまでに三つの眼球を見開かせて中途半端な姿勢で硬直する。 そんな彼らの前に忽然と降り立った一つの影。

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