道理でソルルと何か違うと思ったら、ソルルじゃねー、ソルルのおとーさまときた。 似過ぎだろ。 若過ぎだろ。 「息子から貴方の話は兼ね兼ね耳にしていました」 「どーせバカとかだめにんげんとか言ってたんでしょーね」 「そうですね」 ほらな、ソルルの奴、あの俺様悪魔め。 紳士的で優しげなヒルル、千里の腕に抱かれた自分の孫にあたるカノンをそっと撫でた。 「ぱぱなのにーぱぱじゃなーい」 「おお、よくすぐわかったな、カノン」 「ルルラルはもちろん、千里さんのおかげで孫がたくさんできて我輩は喜んでいます」 でもね、とヒルルはカノンの頭から千里の顎へさり気なく手を移動させると、くいっと、持ち上げた。 「反動でしょうか、無性にこづくりが懐かしくなりました」 「は？」 「我輩のこどもを孕んでみませんか、千里さん？」 あ、コレ、子も子なら親も親ってやつだ。 「せんりーこづくりってなーに？」 「しっ！　カノンはまだ知らなくていーの」 「どうでしょう、今夜、しっぽり営みでも」 「俺の千里を誘惑するな、オヤジ」 さすがの千里も突然のソルル乱入にはぎょっとした。 腕に抱いていたカノンごと、ぐいっと、その両腕に抱かれる。 黒ずくめな超優秀悪魔の旦那様に背中からぎゅううううっとされる。 「もう一度言う、俺の嫁を孕ませるな、クソオヤジ」 「微妙に内容が変わっていますが、ソルル？」 「ぱぱーぐるじー」 「お、俺もぐるじぃッ」 「こいつが去るまで離さない」 おとーさま、早く去ってください、でないと愛する息子と一緒に窒息死するだろーが！ 「なにあれ双子？」「イケメン双子？」と温泉客の注目を浴びる中、千里とカノンの身を案じて慌てたルルラルがヒルルの腕をとった。 「お父様、ルルラルと温泉卵早食い競争しましょう！」 「温泉卵？　それは何だい」 「煮え滾る湯に生息する雌鶏が命をかけて産んだ卵です！」 「ぢ、ぢがうから、ルルラルぢゃん……」 「そうだ、カノンぼっちゃまもおいで？　千里様、ソルル兄様とどうぞまた温泉にでも！」 悪魔なのに気が利き過ぎるルルラル、ばたばたするカノンを兄と兄嫁の腕の輪からするりと取り上げ、温泉卵に興味大なヒルルを連れて足早に渡り廊下を去って行った。 「ゲホッ！　窒息すんじゃねーか、ソルルッ！」 ヒルルがいなくなって抱擁が解かれるなり咳き込んだ千里、涙目で悪魔夫を睨め上げた。 ソルルは真剣な眼差しで人間男嫁に問う。 「煮え滾る湯に生息する雌鶏が命をかけて産んだ卵って何だ、千里」 温泉卵に興味持ち過ぎだろ、悪魔ども。