40 / 117

14-裏逢魔野家おひっこし

夕刻から宵に移りゆく。 大禍時(おおまがとき)逢魔時(おうまがとき)。 人と魔物が「今晩は」する夜の入口。 深みある藍色に浸された空を背景にして街が煌々と点り出していた。 「きれーだな」 「うん」 「なんか夢ん中にいるみてー」 「ゆめ? かのん、まだ、ゆめみてる?」 光り瞬く夜景が一望可能な高級高層マンション最上階ペントハウスのルーフバルコニー。 それまで腕の中で眠っていた我が子が目覚めると、笑いかけ、手すりに器用に立って街を見下ろしている悪魔夫の黒い翼を千里は見た。 「ここが新しいおうちなんだってさ」 「は? 急に何言ってんの、お前?」 「カノンと引っ越せ、千里、家は用意した」 「なんで!引っ越し!?はぁ!?」 逢魔野家にいつもの神出鬼没ぶりで現れたソルルの急すぎる発言に半ばキレた千里。 ルルラルや黎一朗らが心配そうに見守る中、眠るカノンを抱いてわなわな震える人間男嫁に悪魔夫は言うのだ。 「嫁ができた、新居を持ちたい、そう思うのは変か」 「え」 「マイホームがほしい、そう願うのは変か」 「あ」 「デレデレな新婚生活を夢見るって変か」 「う」 こいつ悪魔だよな? 仕事頑張ってこつこつ貯金してきたリーマンとかじゃないよな? 「いいんじゃないかな、叔父さん」 「デレデレな新婚生活! 素敵です!」 他人事だと思って、黎一朗もルルラルちゃんも……引っ越しって結構めんどくせーよ? つーか俺とソルルって新婚なの? こどもは四人もいるし、そもそも、ソルルってこっちにあんまりいねーじゃん、それに用意した家って……何? あんまりにも突飛過ぎて色々怖ぇーよ……。 「じゃあ行くぞ」 「へ」 カノンを抱いた千里を軽々と抱き上げたソルル。 そのまま大股で庭先へ出、ばさりと……漆黒の翼を広げた。 「えっあっうっへっ!?」 「お気をつけて、千里様、ソルル兄様!」 「ぎゃーッやめろッまじでやーめーろーッ!うわッ死ぬッ死ぬッ死ぬーーーーーッ!」 そうして千里はソルルが用意していた新居へバッサバッサと運ばれた。 「おええッ」 「気に入ったか、千里、どーだ」 「はぁはぁ……ど、どうやって、こんなとこ……億ションのレベルなんじゃ……」 「優秀な超優等生の俺が得た悪魔界からのささやかなボーナスだ」 ほんとにリーマンかよ、おい。

ともだちにシェアしよう!