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15-悪魔夫と新婚ごっこ
似非新婚マイホーム生活、二日目、突入。
初日は大悪魔ヒルルと三つ子の乱入……訪問で、ドタバタ……というかエロ新居パーティーと相成った。
クタクタになった千里、夜はぐーすか眠りについて色気ない一夜を終えた。
「んーーー……よく寝たぁ……ッ、ん!? ここどこ!? このでけぇベッドなに!? ラブホ!?」
記憶が飛んでいた千里はラグジュアリーな寝室にぎょっとした。
ぐるんぐるん辺りを見回して、あ、そういえば、と思い出す。
すぐそばでクゥクゥ眠っていた末っ子カノンを撫でて欠伸をした。
悪魔夫なるソルルの姿はベッドどころかマイホームのどこにも見当たらなかった。
「腹へったぁ……」
新居に大まかな家具は揃っていたが冷蔵庫は空っぽ、拉致紛いの突然の引っ越しだったので、お金も着替えも何一つ用意していなかった。
「せんりーごはんー」とひっついてくるカノンを抱っこして、当てもなく広い家をうろうろうろうろ。
「ったく、ソルルの奴どこ行ったんだよ」
「せんりーおなかぐーぐー」
「なーお腹ぐーぐーだよなー。財布は家だし、ここがどこかもはっきりわかんねーし、困るよなー、あの俺様旦那様」
千里はカノンを抱っこしたままルーフバルコニーへ出た。
燦々と降り注ぐお昼前の眩しい日差しにつられて生欠伸を連発、地上で高らかに鳴らされるクラクションを聞きながらぼんやりしていたら。
「……千里様ぁ~……」
なんと。
甥っ子の雄悪魔嫁であるルルラルがばっさばっさとやってきた。
「あーるるらるー」
相変わらず際どいボンテージ姿のへっぽこ悪魔、その背中には……昔の泥棒が背負っていそうな唐草模様のどでかく膨らんだ大風呂敷が。
兄のソルルに頼まれて着替えやら日用品やらを持ってきたという。
「こちらもソルル兄様に預かってきました」
「あっ俺の通帳!! あいつ何勝手に、ッ、どぇぇぇぇッッ!? ゼロがすげぇ増えてるんですけど!?」
「ソルル兄様が生活費として振り込んだとのことです」
初めて目にする残額に露骨に双眸をキラキラさせる千里、これなら毎日パチンコ三昧……!と溢れ出た素直な欲望を慌てて打ち消し、何とか真顔を取り戻してルルラルと向かい合った。
「ルルラルちゃん、あいつ、今どこにいんの?」
「ソルル兄様は悪魔界でお勤め中です」
「あ、アッチにいんの?」
「今夜は千里様の元に戻ってくると思います。では、家のお掃除があるので、ルルラル、戻りますね」
「あ、うん、色々ありがとね、すげー助かった」
ばっさばっさ、父や兄よりも危なっかしげに翼を翻してルルラルは笑顔で去って行った。
ソルル、夜には帰ってくんのか。
空腹の千里は一先ずカノンの手を引いて、もちろん悪魔のようにルーフバルコニーからではなく快適エントランスを抜け、高級高層マンションの外へ出た。
ATMでお金を下ろす際に改めて残額を見せつけられ、グヘヘな悪人面に、カノンに「せんりーけんやくーせつやくー」と諌められて、一週間に必要なくらいの金額を引き出すに留めておいた。
スーパーで今日と明日分の食料を買い込み、帰宅すると、早速カップラーメンをずるずる。
空腹が満たされたところでルルラルが持ってきてくれた荷物をチェックしてみた。
「よしよし、スマホの充電器確保ー、お、カノンのおもちゃもあるぞー、うわ、鍋やフライパンまで……え、炊飯器やレンジも……? ルルラルちゃんって意外と力持ちなんだな……」
大風呂敷を解いて中身を眺めていた千里だったが。
「ぶはっ、な、なんだこれ」
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