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ルルラルが言っていた通りソルルは帰ってきた。
夕日が途絶えて街に宵闇が迫る頃、美しい漆黒の翼を畳んで、ルーフバルコニーに降り立った黒ずくめの悪魔。
と、思いきや。
「今から帰ってくるからな、千里」
「は?」
「待ってろ」
「え? ちょ? ソルル?」
何故か帰宅予告をしてすぐにルーフバルコニーから飛び立っていったソルルにわけがわからず戸惑う千里。
それから五分後。
やたら鮮明なチャイムが新居に鳴り渡った。
首を傾げながらも駆け足で玄関へ向かって千里が扉を開けてみれば。
「今帰った、千里」
上下スーツにネクタイをきちんと締めて小脇にビジネスバッグを抱えた悪魔夫がそこにいた。
「……わざわざ着替えてきたわけ?」
「これが一般的な新婚家庭。違うか」
白金髪に褐色肌で長身、細身の筋肉質でべらぼうにおっとこ前なソルル。
似合っちゃあいるけど、リーマンっていうより、悪魔がスーツ着るとマフィアになんだよな。
にしても、こーいうトコは人間くさいっつーか。
型にこだわるみたいな?
ガチで新婚生活に憧れてたんだな、こいつ。
はー。
じゃあ旦那様のために俺も一つ新婚生活ならでは、やってあげますか。
「おかえり、ソルル」
「ん」
「なぁ、ごはんにする?」
「からあげ」
「いやいやいやいや、違う違う」
「からあげないのか」
「おふろにする?」
「はいる」
「だから違うって」
リーマンのコスプレをしている悪魔夫の間違った反応に千里は苦笑を噛み殺した。
大風呂敷の中に入っていたぶりぶりフリルエプロンを着ていた人間男嫁。
ちょっと上目遣いに、自分をじっと見下ろしているソルルに、照れくさそうに告げてみた。
「それとも俺にする……?」
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