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「カノンは我輩の影と遊んでいます」
挨拶もそこそこにきょろきょろしている千里にヒルルはにこやかに言い、人間男嫁ははたと我に返って、悪魔夫の父親の元へ駆け寄った。
「あ、えっと、ご無沙汰してマス、おとーさま」
大きな翼が折り畳まれたかと思えば一瞬にして掻き消え、深黒の大悪魔は「上がっても?」と、イリュージョンじみた翼収納に圧倒されている千里に声をかけた。
断るわけにはいかねーだろ。
ただ……嫌だな。
だってこの人、つーか、この大悪魔なおとーさまって。
『美味しいみるく、ご馳走様です、千里さん』
なんか怖ぇんだよな。
つーか影と遊んでるってどーいう意味だよ?
「あの、カノンどこ行ったんですかね?」
「安全なところで我輩の影と遊んでいます」
「安全なとこ、って……戻してくんないですか?」
「それはカノンのためによくありません」
ダイニングテーブルでヒルルと向かい合っていた千里は思いっきり不審そうに首を傾げた。
ヒルルは微笑む。
「あ」
テーブルに置かれていた千里の手をとると、なんつータイミングかよ、という不意打ちのキス。
大悪魔が捧げる堕落の口づけ。
人間には太刀打ちできない猛烈なる快楽が唇伝いに肌の内側にまで流れ込んできた。
ぶわわわわわわッッッ
極上の戦慄に全身を犯された千里は咄嗟にヒルルの手を払いのけた。
「おや。我輩の口づけを拒む人間なんて、そうそういません」
「はーーっはーーっ」
「さすがソルルのお嫁さんです」
「なっ何して……はぁはぁッ……」
あ、熱い、燃えそう、沸騰してる。
頭がグラグラする。
体が疼く。
ものすげービッチなコになった気分……うわぁぁぁッ、怖ぃぃッ、やっぱ上げなきゃよかった、おとーさま追い返せばよかったーーーー!
テーブルに突っ伏してはぁはぁつらそうに息をする千里に双眸を細め、ヒルルは、すっと立ち上がった。
「ぎゃっ……」
突っ伏していた千里を抱き上げてソファへ運ぶ。
運ばれている最中、ヒルルに触れている場所が火傷するみたいに痛いくらい熱くて、千里は、呻いた。
どくんどくん体中が鼓動している。
絶対なる支配者に体が服従したがっている。
「ぃ、やだ……ッやだやだやだやだッ!」
心はソルルに預けている千里はまだかろうじて自由がきく唇でヒルルを拒んだ。
でも、すでに自由が奪われた両腕はヒルルを許して、むしろ求めるようにしがみついて。
両足はビッチなコのように大胆に開かれて、やってきたヒルルを受け入れて。
「やだーーーーーーッ!」
「可哀想に。千里さん。貴方を苦しめるその葛藤、我輩が頂きましょう」
ヒルルは微笑交じりにそう囁いて千里の唇からも自由を攫った。
一度定めた獲物は必ず仕留めるその唇で。
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