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17-カノンとひるる太

お外は雨ざあざあ、お気に入りのルーフバルコニーに出られずにカノンはしょぼん。 「カノン、我輩と遊びましょう」 「あーひるる太ー」 「げっ!!」 忽然とリビングに降り立った大悪魔ヒルルにカノンは目をぱちくり、千里は拭いていた食器を落っことしそうになった。 「あの、おとーさま、来るんなら玄関から入ってきてくれませんかね?」 「ひるる太ーあそぼー」 「何をして遊びましょうか。兄の三つ子を呼んで鬼ごっこでもしましょうか」 「むりむりむりむり、弟のカノンが乳離れしたっつーのに、あいつらまだぜんっぜん飲む気満々なんで!ご勘弁ですっ」 「そうですか」 「ほら、カノン、これで遊ぼーな」 千里が取り出したのはシャボン玉セットだ。 原液の入った小さな容器に専用ストローを突っ込み、お手本を見せてやる。 ふわふわふわ~ 「わぁ、せんりが変なの出したぁ」 「変なの、じゃねーよ、これはシャボン玉ってゆーの」 「かのんも、かのんもやるー」 「間違って飲むんじゃねーぞ」 リビングでシャボン玉遊びに夢中になるカノン。 それをすぐそばで興味深そうに見ていたヒルル。 「我輩もしてみたいです、カノン」 「はーい」 カノンから手渡されたシャボン玉グッズ。 ヒルルは見よう見真似でやってみる。 ふわふわふわ 「うわッ!?」 「わぁ、ひるる太、すごい」 ヒルルがつくったシャボン玉は蝶のかたちとなってリビングをゆらゆら飛び回った。 「もっと、もっと、ひるる太ー」 「わかりました」 ふわふわふわふわ 「うわ、マジか」 ヒルルが口にしたストローからは小さなドラゴンやユニコーンのシャボン玉が。 すいすいと泳ぐようにリビングを漂う不思議な虹色シャボン玉にカノンはもう釘付けだ。 「すごーい」 「次はアスモデウスやベルゼブブを出してみましょうか」 「激ヤバそうなのはやめてください、おとーさま」 「またオヤジが来たのか」 「ヒマなのかな、おとーさま」 相変わらずマフィア風な似非リーマン姿のソルルと千里が話していたらカノンがぽてぽてやってきた。 「ひるる太ねーすごいのーシャボン玉じょうずだった」 ソルルは我が子カノンをむんずと不慣れに抱き上げて、抱き上げられたカノンはきょとーん。 「俺の方が、じゃぼんだま、上手だ、カノン」 「じゃぼんだまじゃなーい、シャボン玉」 「すごいの、だしてやる、一度人間が目にしたら二度と忘れられないような、他の記憶を蝕むくらい、すごいの、だ」 「なんかやめて、ソルル、トラウマになりそーだから」 悪魔って普通のシャボン玉つくれねーのかよ……。 次の日も雨ざあざあ。 リビングにて、カノンは出来立ての翼でぱたぱた飛ぶ練習中だった。 「うわ、落っこちんなよ、カノンっ?」 不安がる千里を余所に大悪魔と優等生悪魔は自分の血を引く結晶に惚れ惚れしていた。 「ぱたぱた」 「カノン、こっちだ、来い」 「我輩の元にいらっしゃい、カノン」 「ぱたぱた?」 ヒルルとソルルに同時おいでおいでされ、空中で危なっかしげに迷うカノン。 そして、ぶちぎれる千里。 「あのなー!! 親子喧嘩にカノンを巻き込むんじゃねーよ!!」 空中でどうしようと迷って疲れてきていたカノンを堪らず抱き寄せ、ぎゅーーーっとし、大悪魔と優等生悪魔を睨む人間男嫁、なのだった。

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