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18-ゴスロリ悪魔、降臨
「百人も孕めない貧弱な胎のどこがいいの、ソルル」
俺の目の前で彼女はソルルにキスした。
ソルルの奴、黙って受け止めやがって、俺が見てるのに。
なんだよ、これ。
ほんとは俺のことなんかどうでもいーのかよ……ソルル?
■少しばかり前
朝食を終えて後片付けを済ませた千里はダイニングテーブルに頬杖を突いてボヘェーーーーっとしていた。
どこか浮かない顔つきで、時々、ため息なんかついたりして。
ぱっぱらぱー時代には見せなかった物憂げな表情で虚空をぼんやり見つめている原因、それは。
「ソルルの奴、どこほっつき歩いてんだか」
悪魔夫なる旦那様が我が家に全く帰ってこない。
これではマイホームの意味がない、似非新婚さん気分に浸るどころではない。
よく知らねー悪魔界ってところのお勤めが大変なのかもしんないけど、もう一週間以上は顔を見てない。
だから当然妊活も滞っている。
あいつ、もう五人目つくる気分じゃねーのかな。
「自分からこづくり宣言したくせに……っち」
「せんり、ここんとこ、舌打ちばっか」
テーブルに突っ伏してブチブチ文句を垂れていた千里を見、イスによじ上ったカノン、よしよしと人間雄母の頭を撫でた。
「せんり、ここんとこ元気ないの、だいじょーぶ?」
「……ほんっっとう、お前は俺に似てイイコだな」
千里がよしよし返しをしてやればカノンは気持ちよさそうに目を閉じた。
出来立ての翼を仕舞った背中にはリュックサック。
今日はヒルルと二人で遊園地に行く予定だった。
本当はちょっと嫌だったけどカノンが「行きたい行きたい」って聞かねーから。
それに俺に変な真似しなくなったし、セクハラ発言しなくなったし、おとーさま。
ただやたらカノンに構いたがんだよな。
……まさかショタコン悪魔じゃねーだろーな。
「こんにちは、千里さん、ではカノンと遊園地へ行ってきます」
「カノンにマジで変な真似しないでくださいよ?」
「せんりー、変なまねってなーに?」
カノンを片腕で抱っこしたヒルルはブレないダークスーツ姿で「カノンに変な真似は致しません」と約束し、ちゃんとマンションのエントランスから外へ、駅に向かって歩いて行った。
大悪魔の肩越しに手を振るカノンに手を振り返し、姿が見えなくなると、千里は誰もいない我が家へ足を向ける。
ヒルルから「千里さんもご一緒に」と誘われていたが辞退した。
ソルルの気配が一週間以上も途絶えた今、何だか、色んな物事に関心が湧かなくて。
カノンがいなければきっとぱっぱらぱーに戻っていたに違いない。
これまでソルルがいなくなることは何回もあった、もっともっと長い間、姿を見せないことだってあった。
でも、なんだろう、今回はいやに胸騒ぎがする。
もうソルルと会えなくなるような……。
『ごめんな、千里』
エレベーターの中でソルルの声を度々思い出しながら千里は最上階に戻ってきた。
我が家で悪魔が慈悲なき牙を剥いているなんて思いも寄らずに。
それは流れゆく月日と共に想いが増して前よりも恋い焦がれるようになった悪魔夫ではなく。
「妾にソルルを返して?」
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