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これまでに出会った悪魔の中でも飛び抜けて残酷な彼女の名はリリーと言う。 さっきまで千里が座っていたイスに腰掛けて、全角どこからどう見てもゴスロリな美少女、ぱっつん黒前髪の下には蠱惑的魅力に満ち満ちた双眸。 「ちっぽけで愚かで何の魅力もないお前にソルルは不相応よ」 ……家の中にゴスロリがいる。 ……悪魔、なんだろーな、このコも。 めちゃくちゃカワイイけど、めちゃくちゃ怖い。 リリーは以前に千里のことを追いかけてきた、優等生悪魔のソルルを僻んでその嫁に鬱憤を晴らそうとした悪魔犬より遥かに暴君で。 大悪魔ヒルルともまた違う凄味があって。 何より千里自身に敵意を放っていた。 その敵意に射竦められた千里はリビングの中央で凍りつく。 返して、って……どーいう意味だよ。 このコ、ソルルの何だよ? まさか……彼女……? あいつ二股かけてた? そもそも、絶頂もどきとか、悪魔の倫理観ってカオス過ぎてついていけねぇ。 も、もしかして悪魔って一夫多妻制……? 「うわっ!?」 千里は驚いた。 イスに座ったままのリリーの長い長い黒髪が風もないのに靡いたかと思えば、蛇のように鎌首を擡げ、自分の首に絡みついてきた。 「妾に返して?」 ギリリッと締められる首元。 「返して」 才能豊かな画家が魂を込めて描いた絵画さながらに美しい無表情のままリリーは千里を冷たく見据える。 足元にいつの間に溢れ返った毒蛇の群れ。 全て焼き尽くす凶暴なる業火に炙られる。 なっなんだよこれッ、怖い怖い怖い怖い!!!! 億ションマイホームが火事になるッッ、ちゃんと火災保険入ってのかーーーー!? 「千里、大丈夫だ」 突然、禍々しい光景に視界を埋め尽くされ、恐怖でパニックに陥りかけていた千里にその声は届いた。 「千里、聞こえるか」 「あ……ぅ、ソルルっ?どこいんだよ!?」 「千里、息をしろ」 「ソルル……ッ炎ばっかで見えねーよ!!どこ!?見えないッ!!」 「ここにいる、千里」 俺はいつだってお前のそばにいる。 「……ソルル……」 リリーのまやかしから逃れた千里。 いつもと何も変わらない、蛇も炎も消え失せたリビングで這い蹲っていた。 イスに座ったままのリリーの隣にはソルルが立っていた。 「俺の千里を傷つけないでくれ」 大悪魔ヒルルを前にした時と違い、その声はひどく真摯で、正に哀願で。 リリーが手を伸ばせば自分から頭を垂れて彼女の視線の高さに合わせて。 「百人も孕めない貧弱な胎のどこがいいの、ソルル」 リリーにキスされてもじっとしているソルルに千里は……泣きそうになった。

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