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しばし大悪魔の深黒の翼に抱かれて降り立てばそこは紛うことなき城の前。 普段目にしている夜空よりも濃い色をした闇夜を貫くように聳えている。 何とも凍てついた佇まい。 実際、吐く息は白く、寒い。 「うー」 パジャマに裸足で寒そうにしているカノンを抱き直してスーツ姿のヒルルは足を進めた。 虚ろに構える黒鉄柵の門が独りでに開かれて大悪魔を迎え入れる。 夜霧の漂う庭園に連なる舗道をカツカツと歩む。 「ここ、どこ?」 「我輩のおうちです」 「ひるる太のおうち? おっきいー」 「我輩以外にも棲むものがいますから」 すっかり身を任せて腕の中で寛いでいるカノンにヒルルは微笑みを絶やさない。 おっとこ前ソルルにそっくりだが、ソルルよりお上品というか、穏やかというか、美しいというか。 「おねむではありませんか?」 「へーき」 「寒いでしょう」 「ひるる太、あったかい。だから、へーき」 「あったかい? 我輩が?」 鋭い双眸を珍しく見張らせてヒルルは端整な唇を綻ばせた。 「本当に貴方は不思議なこですね、カノン」 大悪魔とカノンは城の中へ。 外よりも凍てついた空気。 高い高い天井、日が射すことのないステンドグラス、明かりが点されることのないシャンデリア。 無数の蝋燭の炎が壁際で揺らめいている。 ゆらり、揺らめく、シルエット。 麻袋を頭からかぶり、首元は縄で幾重にもぎゅうぎゅう縛られ、その下は何とも豊満な体にメイド服を身につけた城の使用人達。 ヒルルが通ればカノンにはよくわからない言葉で何やら囁いて深々と頭を下げている。 他にも首から上のない豚のような生き物がドタドタ駆け回っていたり、老木のようなものが彷徨っていたり、いきなり鐘の音が鳴り渡ったり。 やがて開けた広間に到着した。 通称<牙の巣>。 やたら幅広で長さもあるソファで寛いでいるもの達がいた。 「「「グルルルルルルル……」」」 どう見てもライオンにしか見えない、しかし真っ黒な毛並みの、漆黒の獣が三頭。 彼等の姿を見つけたカノンは怯えるどころか、ぱぁぁぁっと、笑顔に。 「おにーちゃん」

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