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残虐蠱惑的な悪魔リリーのテリトリー。 奥の暗闇で不気味に眼を光らせてシューシュー音を立てる数多の大蛇に囲まれて休んでいた迷宮の主はぽてぽてやってきたカノンに視線を向けた。 「こんばんはー」 「誰」 「貴女の孫です、リリー」 カノンの真後ろにいつの間に降り立ったヒルルが答える。 「ソルルの第4子です」 「あの貧弱な胎から産まれてきたの」 お気に入りの大蛇を従えて暗闇から姿を現したゴスロリのリリーは、カノンを抱き上げてさり気なく守っている我が伴侶をじぃっと見つめた。 「この子の餌に丁度よさそう」 「本当に貴女ときたら、すこぶる天真爛漫、その細胞、一つずつ破壊して差し上げたい」 微笑む主君、無表情の奥方様、悪魔夫婦の間に立ち上る末恐ろしい修羅場感に一斉に怯え出す蛇達。 そんな中、一番怯えていいはずのカノンは冷ややかに微笑しているヒルルの頬をぺちぺち叩いた。 「ひるる太、けんかだめー」 「カノン」 「かってにおへやはいった、かのん、悪いこ。ごめんなさい」 「悔い改めてこの子の口へお入り」 「帰りましょうか、カノン」 ゆっくりそっとカノンを抱え直したヒルルは我が伴侶に告げる。 「この子は悪魔と人間の間に生まれ落ちた奇跡です、リリー、貴女もお気づきでしょうに」 リリーの結界に我知らずぽてぽて踏み込んでしまったカノンを大事に大事に抱いて。 ヒルルは人間界へ戻ってきた。 まだ真上にある月の下、先日、カノンといっしょに訪れた遊園地の観覧車に翼を畳んで腰掛ける。 ちなみに深夜だ、遊園地の何もかもが電源を落とされている、観覧車も然りだ。 「たかーい」 正確に言うならばヒルルは天辺で停止しているゴンドラの屋根に足を組んで座っていた。 「カノン、指を怪我したのですか」 バラのトゲでちょこっと引き裂かれたカノンの指先。 ちっちゃな手を恭しくとったヒルルは端整な唇による口づけを。 雄母千里が腰砕けになったのに反してカノンはくすぐったそうに笑った。 「あーなおった」 「我輩の加護を貴方に授けました」 「? ありがとーひるる太ー」 城の中庭でたくさん飛んだせいか一気に眠たくなったカノンは美しい大悪魔の両腕に甘えた。 うとうとし始めたカノンの髪をヒルルは素手で静かに梳いてやる。 何もかもが眠りについた遊園地の真ん中で何よりも愛らしい混血なる結晶を抱きしめた。 「おやすみなさい、カノン、いい夢を」 「うぉっ……えっもう朝かよっ?いででっ、首痛いッ寝違えてるッ!」 「おはようございます、千里さん」 朝のこども部屋、寝起きで寝癖だらけの千里はぎょっとした。 「あーーーっちょ、また不法侵入ッ……つーかそのテントこども用ですから!無理して頑張って入んないでもらえます、おとーさま!?」 「どうしても入ってみたかったのです」 窮屈そうにしながらもテント内で休んでいたヒルルの懐で眠るカノン。 「ちゅぅちゅぅ……」 ヒルルに指しゃぶりして、ほんとの夢の中、それは楽しくみんなと遊んでいるのだった。

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