でもま、ソルル、悪魔だし。 俺のこと愛しちゃってるみたいだし？ 俺に変身したカフカに会わせたところで、俺じゃないって、どーせすぐにバレんだろーな。 悪戯を試す瞬間は意外にもその日の内に訪れた。 ソルルが久しぶりに我が家へ帰ってきたのだ。 「千里」 夕暮れに漆黒の翼を翻してルーフバルコニーに一端降り立った悪魔夫。 前と同じようにわざわざ「今から帰るからな」宣言し、再び飛び立つと、それから五分後に玄関チャイムを鳴らして二度目の帰宅に至った。 ルーフバルコニーで出迎えたのは千里、次に玄関で出迎えたのは千里版カフカだった。 ソルルが一体どんな反応をするのか、人間男嫁はカノンと共に扉の隙間から息を潜めてワクワク窺っていた。 「今帰った、千里」 「おかえりな、」 ぶりぶりエプロンを身につけた千里版カフカが「おかえりなさい」と言い終わる前に。 似非リーマンなソルルは偽りの唇にスペシャル濃厚キスを……。 「信じらんねぇ」 しょ気た千里は寝室のベッドで布団に包まって不貞腐れていた。 「機嫌、直せ、千里」 ベッドに腰掛けてネクタイを緩めたソルルは不機嫌な人間男嫁に寄り添っている。 まさか我が子に嫉妬する日が来るなんて。 つーかさ、いつも、こんな。 放置されて、俺ばっか、さみしー思いして。 お前は平気なのかよ？ 俺と離れて向こうにいっぱなしでも構わねーわけ？ 『俺はいつだってお前のそばにいる』 実際、いねーじゃん、うそつき。 「千里、なぁ、千里」 ソルルの声のトーンが少しばかり落ちた。 頭からすっぽり布団に包まった千里はどきっとする。 どんな言葉が後に続くのか、胸をじんわり熱くさせて次の一声をじっと待っていたら。 「なぁ、からあげ、千里」 か・ら・あ・げ。 嫁がこんな落ち込んでるっつーのに、からあげ。