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21-カノン、おっきくなっちゃった
月齢15の夜には思いがけない奇跡が起こる。
主に悪魔方面で。
「ふわぁ」
こども部屋、ふかふかベッドの上で真夜中に目が覚めたカノン。
何だか違和感があって夢から醒めた。
その違和感の原因がわからずに、喉が渇いたので、とりあえず水を飲もうとベッドから降りてキッチンを目指す。
「あれー」
戸棚の中に仕舞われているグラスをとる際は踏み台がいつも必要だった。
しかし今日は踏み台を使用せずに戸棚からグラスをとることができた。
やっぱりなんかへーん。
それに世界がいつもとちがうの。
いろんなものが見える。
見えなかったものが見える。
それに手と足がにゅってのびた?
かみのけもいきなりのびた?
「兄にゃん」
振り返ればリビングでテレビを見ていたはずの黒猫版カフカがちょこんと床に座っていた。
弟は兄を繁々と見回して「きひひ」と笑いながら言うのだ。
「兄にゃん、おっきくなってるにゃよ」
首筋を伝って鎖骨の下まで少女のようにさらりと伸びた髪。
洗濯したパジャマが乾かなくて代わりに着た、ぶかぶかだった千里の長袖シャツが割とすんなり似合う、十代じみた細身の肢体。
悪魔父ソルルよりも人間雄母千里の容姿を受け継いだ外見。
しかし一夜にして急成長を遂げた今夜のカノンは千里よりもこう、煌めいているというか、澄んでいるというか、瑞々しいというか。
とっても別嬪さんだ。
「かのん、おっきくなっちゃった?」
「おっきぃにゃよ」
「どして?」
床にぺちゃんと座り込んで尋ねてきたカノンに黒猫カフカは腕組みして答えてやる。
「満月の夜、悪魔は何かと影響を受けやすかったりするにゃ。興奮したり、殺気立ったり、まぁ悪魔それぞれにゃ。まぁたいていの悪魔は心躍るにゃ」
「かふか、すごい、ものしり」
寝室で千里がぐーすか熟睡している中、カフカはピーンと尻尾を立てて急にハイテンションになった。
「心躍ると言えば、今日は悪魔界のおうちで舞踏会があるにゃ!」
「かのん、そんなの、知らにゃい」
あ、うつっちゃった。
「祖の記憶を記憶してるボクは何でも知ってるにゃ。行き方だってわかるにゃ。兄にゃ、今から行こう!」
突拍子もないカフカのお誘いにカノンはびっくりするかと思いきや。
「行く」
ルーフバルコニーで巨大化した翼つき黒猫カフカの背中にしがみついたカノン。
目を瞑るよう言われてぎゅっと閉じていたら。
五分後、そこはもう悪魔界。
凍てつく闇夜を貫くようにして佇む黒き城の前だった。
「こっちにゃ、抜け道があるにゃ」
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