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「こちらに来たとき、ここでゆっくり過ごすといいでしょう。飛ぶ練習もできます」
ミニドレスをふわっと広げて真白なシーツに長い髪をさらりと滴らせたカノン。
「ひるる太ー、いっしょ、ねんね」
明かりのない薄闇に白金髪を煌めかせ、百九十手前の長身で細身の筋肉質、鋭い目つきながらも美しい微笑を常備しているヒルル。
大悪魔はカノンの隣にゆっくりと横になった。
「ひるる太、かのんのこと、きづいてくれて、ありがと」
「カノンは特別ですから。どんな姿形に変わろうとすぐにわかります」
カノンはヒルルをぎゅっとした。
くすぐるように指先で頬を撫でてやれば、ぱっくん、いつもの癖で指しゃぶり。
瑞々しい唇で長い指の第一関節まで含む。
ちゅぅちゅぅ無邪気に吸い上げる。
「お顔を見ても?」
無心でちゅぅちゅぅしているカノンからヒルルはそっと片手でベネチアンマスクを外した。
少し乱れた髪を整えてやり、軽く額に口づけて、抱きしめる。
「カノン、お願いがあります」
「うー?」
「翼を出して頂けますか」
ひるる太、ぱたぱた、してほしいの?
かのん、ちょこっとつかれた、ひるる太のとなりでごろごろがいい。
「おねむですか? ごめんなさい」
「……ぱたぱた、ぱたぱた」
「ええ。そう、ぱたぱた。貴方の翼です」
カノンは指しゃぶりを中断すると、もぞり、身を起こした。
美しい大悪魔のために背中の内側に仕舞っていた翼を広げようと、僅かに項垂れ、目を閉じて、そして。
花開くようにカノンの背中に生まれた翼。
普段のちっちゃなサイズを大きく上回る麗しいシンメトリーが左右に穏やかに翻った。
「かのんのぱたぱた、おっきくなってる」
「綺麗です、カノン」
今の体躯に見合ったしなやかな翼に微笑を深めたヒルル。
ぽんやりきょとんしているカノンを抱き寄せた。
まるで待ちわびていた孵化を迎えたような、数世紀ぶりに覚える懐かしい、溌剌とした感動。
「ぱたぱた、これだといっぱいとべる?」
「飛べるに違いありません、でも今夜は疲れたでしょう? ゆっくりお休みなさい」
「ひるる太ー」
自分よりも強い力でぎゅっとしてきたカノンにヒルルは……大悪魔にして聖母じみた微笑を浮かべた。
その瑞々しい唇にそっと口づける。
かけがえのない結晶を自身の深黒の翼で守るように包み込む。
「カノン、いつまでも一緒にいましょうね」
目が覚めれば人間界のこども部屋のベッドにいたカノン。
「ばかのんっ起きろ! ホットケーキ冷めるぞ!」
「あれー」
元のちっちゃな姿に戻っていた。
ちょっと残念だったけれど、ガミガミ千里に小脇に抱えられて楽しくなって、すぐに残念な気持ちは忘れた。
もしかして夢だった?
「きひひっ」
リビングでテレビを観賞中の黒猫悪魔と恋に落ちた大悪魔だけが答えを知っている。
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