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22-3
フライパンを持ったまま振り返った千里はぎょぎょぎょっとした。
イスを真後ろへ倒す勢いで立ち上がったカノンが着席したままのヒルルに正面からぎゅーーーーーっと抱きついているではないか。
「ひるる太ーあいたかったー」
跪いたカノン、欲望のままにヒルルにすりすりすりすり頬擦りしている。
「カノンはいつものように我輩に甘えているだけです。お気になさらずに、千里さん」
そ、そーなんだけど。
でっかいカノンがおとーさまに抱きついてる構図はちょっとばっかし怪しげというか……カノン、ほぼ裸だし。
「ほ、ほら、カノン、ホットケーキ焼けたぞ?」
うん。カノン、いつまで大サイズでいんのかわかんねーけど裸のままってのもアレだし。
服、買ってくるか。
「ありがとー、せんり」
「俺、お前の服買ってくっから」
「かのんも行くー」
「だーめ、お前バスタオル一枚だもん」
「しゅーん」
「我輩とお留守番しましょう、カノン」
肝心なときにいねーんだからなぁ、俺の旦那様は(怒)。
「ひるる太ーひるる太ー」
千里がいなくなったおうちにカノンの無邪気な呼号。
「かのん、おっきくなった」
ソファに並んで座ったカノンとヒルル、いや、カノンは座るというよりヒルルにもたれまくり、小サイズの頃と同じノリでべったべたにくっついている。
「ええ、そうですね、貴方は月の魔力の影響を受けやすいようですね」
「おっきくなった」
同じ言葉を繰り返すカノンの頭を撫でながらヒルルは微笑ましそうに頷いた。
あれー。
ちゅって、してくれない。
かのん、おっきくなったのに。
「ひるる太」
「何でしょう」
「ちゅ」
「ちゅ?」
バスタオル一枚というほぼ全裸で擦り寄ってくるカノンにヒルルは首を傾げた。
ソルルと瓜二つだが、ソルルにはない品を持った、その唇。
痺れを切らしたカノンは自分から。
ちゅっと。
大悪魔にキスを。
「カノン」
「ひるる太、前、してくれた、くちとくち」
「そうでしたね」
「かのん、ひるる太、ずっといっしょ」
「ええ。覚えていてくれたのですね、カノン。嬉しいです」
次はヒルルからカノンに口づけを。
「もっとー」
無邪気におねだりされてヒルルは微笑を深めた。
美形男前な顔立ちに両手を添え、額、両頬、鼻先、ゆっくりキスを落としていき、最後にまた唇へ口づけてやる。
嬉しそうに笑うカノン。
傍目にはほぼ全裸とスーツがいちゃついているようにしか見えない。
「あれー」
体が大サイズになろうと頭は小サイズのままなカノン。
あんまり羞恥心が備わっていない。
まだまだぽんやりこどもだ。
「むずむず」
「むずむず?」
「じんじん、むずむず」
細身の筋肉質である自分より発達した体を、手触りのいい張りのある素肌を革手袋の掌でヒルルがいとおしそうに触れていたら。
「ぱくんっ」
指しゃぶりの癖が抜けていないカノンは革手袋に包まれた指先をぱっくんしてきた。
傍目にはスーツに子飼いにされているほぼ全裸、だ。
もう一本指を挿し込んで上下に押し開くように口内を広げてみたり、そっと舌先を摘まんでみれば「んー」とくすぐったがる。
じゃれついてくるカノンを優しくあやしてやりながらヒルルは片手の革手袋を器用に口で外した。
大悪魔が素手で触れた先は。
バスタオルに隠れた、でっかくなったカノンが真っ先に「おっきくなった」と注目した場所で。
「???」
あ。あ。あ。
おっきくなったかのんの、ひるる太、さわってる。
なにこれすごーい。
ぽかぽか、じんじん、むずむず。
くすぐったいけどきもちいー。
「んーーっ……ひるる太……これなぁに……?」
「貴方に捧げる我輩の愛のしるしですよ」
あ。それって。
せんりと、ぱぱが、してたみたいな?
バスタオルを潜って訪れたヒルルの手にカノンは素直にはあはあはあはあ、初めての悶々感覚にむず痒そうに体を震わせ、大悪魔に覆いかぶさってきた。
受け止めたヒルルはゆっくり優しくカノンの股間で手を動かす。
「んーーーーーっっ」
下半身に満ち行く熱に堪らなくなったカノン、目の前にあったヒルルの褐色首筋をがぶり。
やたら甘く感じられる極上の痛みにヒルルは満足げなため息をついて。
微笑交じりに囁きかけた。
「千里さんにはナイショですよ、カノン……?」
「あのーー……その首筋のキスマークみたいなのは……やっぱキスマークですかね」
大サイズの服を買ってきた千里が早速凍りついているのに対し、大カノンにずっとじゃれつかれているヒルルは「遊んでいたら噛みつかれました、元気な証です」なんて答えている。
ソファの影でずっと知らん顔していたカフカが「きひひっ」とこっそり笑う。
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