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お風呂掃除をしていた千里の元へぽてぽて向かい、壁越しにそぉぉぉっと覗いてみれば。
「ううッ……なんだよこれぇ、あ、痛い、完ッ全頭から生えてる、コレ、引っ張ったら痛ぇッ」
「せんり、おみみ、しっぽ、できてる」
「ままにゃ、ボクとお揃いにゃ」
そう。
カフカに噛みつかれた千里に猫耳と尻尾が生えてきてしまったのだ。
なにこれ怖ぇと半絶望している千里を余所に人間雄母の周りで末の混血こどもらは無邪気にはしゃぎ回る。
「千里さん、今日は随分と可愛らしい姿を」
そうこうしている内にいつもの神出鬼没ぶりでヒルルが現れた。
悪魔夫と瓜二つである義理父と対面した千里は、その時、猫耳尻尾発生でショックの余り忘れていたことを思い出した……。
「今月末はハロウィンだ、千里」
「へぇ。ソルル、ハロウィン知ってんだ」
「仮装して待ってろ」
「仮装だぁ? めんどくせーよ」
「仮装しないとイタズラするぞ」
「……なんか違うくね?」
そうだ、今日、ひっさびさにソルル帰ってくんだった。
そんな時に限って猫耳って……尻尾って……!!
「素敵な仮装じゃありませんか」
そりゃあ悪魔から見たら仮装程度かもしんねーですけど、実際にコレ生えてっし、実物だし。
一生このままだったらどーしよ。
つーか猫になったらどーしよ!?
秋晴れだった青空がゆっくり暮れてゆく。
乾いていた空気に絡まり出す夜の息遣い。
耳を澄ませば、ほら、夕闇に翻る翼の音。
「千里、今帰ったぞ」
久し振りに人間界のマイホームへ帰ってきた優等生悪魔のソルルを出迎えたのは。
「お、おかえり……ソルル」
不自然に頭からすっぽり黒マントをかぶった人間男嫁だった。
「からあげくれなきゃイタズラするぞ」
「お、お菓子だろーが……でもまー、からあげ作ったぞ、しこたまな」
「さすが俺の嫁だ。ところでカノンとカフカはどうした」
「おとーさまが連れてった、しかもシティホテル予約したんだと。カノンもカフカも行きたがったから、うん、預けた」
「……オヤジ、また来たのか」
「最近しょっちゅー来てるぞ。大悪魔もヒマしてんだな」
「ところで千里」
壁にぶつかりながら前をよろよろ進んでいた千里をソルルは黒マントごと背中から抱きしめた。
「これが仮装なのか」
「ッ……そ、そーだッ、怖いだろッ、おばけだぞーーッ!」
「ふざけんな、お粗末にも程がある、千里」
「わッ!?」
黒マントごとソルルの肩に担がれて千里はぎょっとした。
「仮装、さぼったな、イタズラだ」
「ソルルッ、待って、待てってば、ッ、いででッ壁に頭ぶつかってんだろーがッ!」
ぎゃーすか喚く千里に知らん顔、主寝室に入ったソルルはベッドへ人間男嫁を放り投げた。
「こんなマント一枚で仮装か。悪魔の赤子だってもっとうまく化けるぞ」
「あーーッだめッとるなッとんないで、ソルル……!!」
抵抗も虚しくマントを剥ぎ取られた千里。
ベッドの上に現れた猫耳尻尾つき人間男嫁の姿に悪魔夫は珍しく目を見張らせた。
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