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24-ハロウィン・ワン・ツー!

その日はハロウィンだった。 人間界がこの世界の色にほんの少しだけ染まる。 「またアチラへ?」 永遠の闇夜に支配された悪魔界から人間界へ降り立とうとしていたヒルルは我が棲家なる城の中枢で振り返った。 恐ろしく長いゴシックドレスの裾を通路に延々と引き摺って顔の半分を扇子で覆った奥方のリリーがそこにいた。 アクセサリー代わりにお気に入りの大蛇をその身に纏わりつかせている。 残虐蠱惑的な彼女に正に相応しい装飾品だった。 「ええ」 「そう。どうぞごゆっくりなさって、御主人様」 「何かお土産を持って帰りましょうか」 立ち止まったヒルルの元へ音もなく滑るようにドレスを滴らせてやってきたリリー。 ぱっつん黒前髪の下で蠱惑的魅力に満ち満ちた双眸を光らせて大悪魔の夫君に告げた。 「そうね。じゃあ御主人様が今一番大切にしているコの眼球を頂けるかしら」 扇子の下で禍々しいおねだりが紡がれた瞬間。 天井に吊り下げられたシャンデリアのクリスタルが一斉に砕け散った。 おそばで頭を垂れていた給仕らは悪魔夫婦が醸す修羅場感に怯えてひたすらお辞儀し続けている。 まるで雪のようにクリスタルの破片が舞い降りる中でヒルルは微笑んだ。 「本当に貴女ときたら、この永い年月を死神よりも残酷に歩んできたにも関わらず相変わらず赤子のように無邪気で、その瞳、一つずつ嬲り物にして差し上げたい」 キラキラと淡く光る結晶の雨に降られながら殺意を友にして二人は見つめ合うのだった。 「せんり、おみみ、しっぽ、できてる」 猫耳尻尾が生えて「どーしよー」と慌てふためく人間雄母の千里とは反対に無邪気にはしゃいでいたカノン。 「きひひ、よく似合ってるにゃよ、ままにゃ」 弟のカフカはどこかしたり顔だ。 おろおろ慌てふためく千里や純粋なカノンが気づくことはなかったが……。 「千里さん、今日は随分と可愛らしい姿を」 そうこうしている内にヒルルがいつもの神出鬼没ぶりで現れた。 慌てるのにも疲れてガックシ項垂れていた人間雄母の猫耳を引っ張ったりして遊んでいたカノン、ぱあああっと顔を輝かせ、すぐに大悪魔の懐へ飛び込んだ。 「おや。カノンはまた小さくなったのですね」 「かのん、ころころ、おっきくなったり、ちっちゃくなったり」 ぽんやりあったかい小カノンを抱き上げたヒルル。 悪魔界で奥方様がぶん投げてきた脅し文句が鼓膜にこびりついていた大悪魔は愛しい混血こどもを思う存分抱擁した。 なーんにも知らないカノンは大悪魔の抱擁に心地よさそうに身を委ねる。 「今夜はソルルが帰ってくるのでしょう。きっと喜ぶに違いありません」 「何でも知ってんですね、おとーさま……はぁ……野郎がこんなモン生やしたって可愛くも何ともねーだろ……ブツブツ……」 「ですのでカノンは我輩が預かりますね」 ソファで体育座りしてブチブチ文句を垂れていたはずの千里に「は?」とすかさず聞き返されてヒルルは卒がなく回答した。 「今夜はシティホテルに予約を入れています。千里さんはソルルとどうぞごゆっくり、カノンのことは我輩にお任せ下さい。明日の夜までにはこちらへ送ります」 「せんりとぱぱ、愛のしるしー、ちゃんとしたキスするのー」 「こ、こら……カノンっ」 真っ赤になった千里を微笑ましそうに眺めるヒルル、ネクタイにじゃれついているカノン。 「ボクも行きたいにゃ」 足元にスリスリとじゃれついていたカフカをそっと抱き上げれば末孫は肩にするりと移動した。 グルグル頬に擦り寄って甘えてくるカフカの小さな頭を撫で、ヒルルは、頷く。 「もちろん。歓迎しますよ」 「やったにゃ」 「ところで千里さん。この喋る黒猫は悪魔の血を継いでいるようですが。名は何と言うのです?」 「……そいつは俺が産みました、ソルルやおとーさまの血を継いだおとーさまの孫です、カフカです」 初めてちゃんと紹介されたカフカ、ヒルルの指に顎の下をくすぐられて「なーご」と満足げに鳴いた。

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