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25-ハロウィン・ワン・ツー・スリー!

その日はハロウィンだった。 「今日、人間界はハロウィンなんだと」 「ハロウィン? なんだそれ」 「……とりっく・おあ・とりーと」 永久に闇夜、悪魔界、大悪魔の城。 通称<牙の巣>にて。 火のない暖炉、連なる燭台に点々と灯る炎、切り裂かれた絵画、暗闇に塗り潰された格子窓。 だだっ広い広間、やたら幅広で長さもあるソファで寛いでいるもの達がいた。 「カボチャをかぶって踊り狂う祭のことだぞ」 黒髪に白メッシュ入りの、ワガママ自己中サラサ。 「それ、くさそうだな」 片方の瞼に一文字の傷が刻まれている隻眼のアクア。 「……カボチャはかぶらないよ」 怖がりで引っ込み思案の大人しいナズナ。 大悪魔のヒルルを祖父に、優等生悪魔のソルルを父親に持つ、瓜二つな二人にこれまたよーく似た由緒正しき悪魔の血を引く三つ子。 人間で言えば高校生以上社会人未満のイケメン外見、しかし彼らのなかみはまだまだこども。 遊びたい盛りなお年頃だ。 「行ってみっか」 「だな」 「お、怒られるよ、パパとおじい様に」 人間界の海外ブランド店にてヒルルが見立てたスーツを揃って着こなした三つ子は顔を見合わせた。 下界へ降りるにはどちらかの許可が必要だ。 大好きな人間雄母を独り占めしたがる父親ソルル、大好きな弟を溺愛している祖父ヒルル。 どちらも怒らせたらべらぼうに怖い。 「バレなきゃいーだろ、怖がりナズナめ」 「お前は置いていく」 「えええ~」 「でも、パパはともかく、おじい様にバレると確かにやばい」 「半処刑だ」 「……つ、吊るされたくない」 三つ子がどうしようと迷っていたところへ。 恐ろしく長いゴシックドレスの裾を通路に延々と引き摺って彼女はやってきた。 「「「リリー」」」 扇子を翳してソファに腰を下ろした祖母のリリー。 まだ幼い悪魔の三つ子にゴスロリな美少女は厳かに笑いかけた。 「下界へ降りたいのね。いいわ。妾が許可しましょう」 優しいリリーの言葉に三つ子は喜色満面、この世界で一番自分達を思いやってくれる彼女の足元にこぞって跪いた。 「「「リリー、ありがと」」」 「今夜は御主人様もソルルも降りているわ。注意なさい」 「「「はーい」」」 「……リリー、おみやげ、いる?」 ナズナに先を越されて「しまった」と焦りをもろに顔に出したサラサとアクア。 そんな三つ子の頭を順々に撫で、豊潤な唇を綻ばせ、リリーは囁いた。 「何もいらないわ。貴方達が無事に帰りさえすれば、妾は、それでいいの」 そんなこんなで人間界に向かった三つ子サラサ・アクア・ナズナ。 悪魔界と人間界を繋ぐ経路を一つしか知らない彼等は必然的に現在ソルルとヒルルがいる街へ。 地上を満たす夕闇、高まるハロウィンムード、まるで愉快な悪夢。 以前に来たときと違うオレンジ色の街並みに三つ子は興味津々。 サラサがジャックランタンをかぶろうとしたり、天使の仮装をした通行人にアクアが噛みつこうとしたり、その度にナズナが慌てて止めたり。 お腹が空いたのでリリーにもらったお小遣いでクレープを買い、街角のベンチに座って並んで食べていたら。 「にゃにゃにゃっ」 どこかで見覚えのある黒猫がどこからともなくやってきた。

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