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25-4
更けゆく夜。
長居は無用とクラブをさっさと後にし、人気のない裏通り、闇に紛れて疾走した三つ子は街中にどーんと広がる公園へやってきた。
いちゃつく恋人同士のすぐ背後をざああっと走り抜けて公園の奥へ。
噴水場へやってきた。
「冷たいにゃっ」
水浴びを始めた三つ子、サラサの背中にしがみついていたカフカは目を白黒させ、噴水の外側へジャンプしようとしたのだが。
空中でサラサにぱくっと咥えられて「にゃにゃっ」とびっくり。
サラサはお気に入りのオモチャのようにカフカを咥えたまま水浴びする、おかげでカフカまでびしょ濡れになった。
冷たい水に浸かって昂揚していた気分が徐々に落ち着いてくる。
ばしゃばしゃばしゃばしゃ、互いに掛け合ったり、じゃれ合ったり、爪や牙を戯れに交わらせていたら。
三つ子は人間の姿になった。
ほんっとう今更ながら誰かに見られたらやばい、という警戒心がようやっと働いたらしい。
「きもちいい」
「こんなに楽しかったの、久し振りだ」
「……初めてかも、しれないよ?」
水の中で高価なスーツも靴も身につけたまま寛ぐ三つ子。
全身びっしょり濡れて男前度が不要なほど倍増している。
「くしゅんっ」
噴水の池に浸かった三つ子が揃って振り返れば。
カフカが寒そうにガタガタ震えていた。
「カフカ、寒いのか、悪魔のくせに」
ガタガタなカフカを笑いながら抱き上げると濡れた懐に招いたサラサ。
「寄越せ、俺があっためる」
すかさずサラサの懐から奪い取って自分の懐に閉じ込めたアクア。
「……サラサもアクアも濡れてるから、それ、意味ない」
水の中で体育座りして冷静に首を左右に振るナズナ。
「さ、さ、寒いにゃ」
「よし、カフカ、お前はおれのお共になれ」
「にゃっ?」
「違う、おれのお共だ、カフカ」
「にゃーっ」
「……カフカ、おれのお共」
熱視線を送ってくる兄の三つ子を順々に見返してカフカはきっぱり答えた。
「やにゃ」
「「「がーーーーん」」」
「お共じゃなくて、おともだち、なりましょう」
「「「おともだち?」」」
「おともだちでございますにゃ」
「「「また会える?」」」
淋しそうにして尋ねてきた三つ子の褐色頬をぷにぷに肉球で、ぺた、ぺた、ぺた、してからカフカは頷いた。
「また会えますです。約束にゃ」
あ。
カフカ、カノンみたい。
「……なんじゃこりゃあ……」
<こんな吸血鬼になら襲われてみたいかも!? そして次のトピックスなんですが、これ見て下さい! ライオンですよね!? 各SNSで投稿が相次ぎまして、ネット上で一夜にして話題沸騰なこの動画! 皆さんどう思われます!? 何だか……本物に見えません!?>
「悪魔にしか見えません、我が子にしか見えません」
「どうした、千里」
「あ、ソルル……これってさ、」
「サラサアクアナズナだ」
「だよな、やっぱそうだよな……ちょっと会わない間にまたでっかくなりやがって、こいつ等(泣)」
<真偽の程は不明ですが、いやー、実際のところどうなんでしょうね!! 以上、ハロウィン特集でした!!>
「おにーちゃーん」
その動画が流れ出すなりテレビに張りついてまじまじ眺めていたカノン。
そのすぐ背後に跪いたヒルルは小さな頭をそっと撫でた。
「そうですね、サラサアクアナズナでしたね」
昨夜はハロウィンだった。
愉快な悪夢なる一夜のTrickとして大目に見てやるかと、三つ子を許すことにしたソルルとヒルルなのだった。
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