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「あーーー疲れたーーーこれじゃあ今日は飯作れねーよ、カフカ、代わりに作ってくんない?」
「洗濯物はいれたにゃ。ごはんは作れないにゃ」
「お、ありがとな。なんかお土産ほしいものあるか?」
「ないにゃ」
お留守番しているカフカに電話していた千里。
通話を終え、また背もたれに「ふーーっ」ともたれてどこからともなく聞こえてくる客の悲鳴をぼんやり聞いていたら。
「なぁなぁ、今すげーショーやってるってよ!」
「ガチでリアルな蛇とイケメン三つ子が戦ってるって!」
近くをばたばた駆け抜けていったハイテンション客の会話に千里は……目をひん剥かせた。
「三つ子……? へ、蛇……?」
何だよ、蛇って。
『妾に返して?』
集まってきた客がうざったくて火を吐いた巨大蛇ソドム。
自分達と人々の狭間に火の壁なる囲いをつくった。
めらめらと燃え上がる炎に肌理細やかな白鱗が眩く煌めく。
とぐろを巻いたソドムにまたも揃って捕らわれて泣き喚く三つ子。
熱いし苦しいし気持ち悪くて。
人間雄母を呼んだ。
「「「ママーーーー!!」」」
「サラサ、アクア、ナズナ……ッ」
千里は火の囲いの中にいた。
ずっと震えが止まらない。
姑リリーに見せられたまやかしと似たような光景が、今、目の前に広がっている。
毒蛇の群れは真っ白な巨大蛇に。
凶暴なる業火は火の壁に。
しかも今回は本物だ。
植えつけられた恐怖は倍増して千里を脳内から虐げる。
嘘だろマジかよ、なんだよコレ、ショーやアトラクションにしてはやり過ぎだろ……ッ。
テーマパークが仕掛けてきたことだとマジで思っている千里、めらめら揺らめく炎に焙られて全身発汗が止まらず、熱さと恐怖で意識は朦朧、今にも失神しそうだった。
ひ、人のこども勝手に巻き込みやがって、訴えてやる……ッ。
しかもなんだよこの蛇、ほんとリアル過ぎんだろッ、どんだけ金かけてんだよ!?
いつ終わるんだよ、コレ。
いつサラサアクアナズナ返してくれんだよ。
「「「助けて、ママ!!!!」」」
立ち尽くしたままブルブル震える千里を涙ながらに叫び呼ぶ三つ子。
自由な片腕をそれぞれ精一杯伸ばして。
「「「ママ!!!!」」」
成す術もなく震えていた千里は……ギリッと歯を食い縛った。
「こンの……ッ俺のこどもに何してんだッ!クソ蛇がッ!」
武器も何も持たない身でありながら人間雄母は無謀にも巨大蛇に立ち向かった。
恐怖による金縛りを振り払って、前だけ見据えて。
自分を呼ぶ三つ子を助けたい一心で。
ソドムは自分に向かって走ってくる千里に鎌首を擡げた。
必死な形相を嘲笑うかのように、かぱぁぁ、上顎下顎を上下全開にして残酷な牙並ぶ口内を露出させたかと思うと。
「「「あ!!!!」」」
三つ子の頭上で、千里に向け、火を、放った。
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