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実際、ソドムはサラサを呑み込みはしたが食べたわけではなかった。
「うぇぇっ、きもちわるっ」
巨大蛇の内側、粘液だらけの突起粘膜狭間でサラサは悶絶していた。
みちみち、みちみち、窮屈に締まるソドムのナカ。
粘膜が体中にぴったり張りついて延々と細やかに収縮している。
ビッシリ生えた突起がきもちわるい。
褐色の肌身にもぞもぞ纏わりつき、全身満遍なくくすぐられているようで、恐ろしくぬるぬるしていて、むず痒い。
「うみゃあああッぬるぬるやだッ……ママっ……アクアぁ……ナズナーーーーッ」
「ひるる太ー、あれ、なーに? 恐竜? ドラゴン?」
カノンを抱いて海底までやってきたヒルル。
左右に大きく広げたしなやかな翼はそのままに、この海の主である彼を眼下にし、カノンに答えた。
「蛇です、カノン」
カノンはおめめをぱちくりさせた。
海底で眠りにつくかのようにそこにいる彼を今一度見下ろしてみた。
宵闇にも似た溟海の暗さよりも濃厚な闇色。
何重にもとぐろを巻いて彼もまたカノンを見上げていた。
漆黒の鱗に覆われた海蛇。
でかい。
どでかい。
何坪だ、ドームいくつ分だ、と言いたいくらい海底をどぉぉぉぉぉんと支配している。
おかげで全貌が把握できない。
漆黒の海蛇はゆらぁぁぁり、頭を起こすと、ヒルルに近づいてきた。
凄まじい迫力に圧されるでもなく悠然と出迎えるヒルル、その懐で同じく興味津々に見つめているカノン。
海蛇は鳴いた。
水中にオォォ……ンと緩やかな波紋が広がる。
まるでクジラの歌のような。
革手袋をしたままの手をヒルルが差し伸べれば、ゆらぁぁぁり、頭を擡げてより大接近してきた。
「わぁ」
何重にもとぐろを巻く巨大な胴体を海底に残してヒルルに頭を寄り添わせた海蛇。
カノンはもう釘付けだ。
「ひるる太のともだちー」
溟海の底で穏やかに鳴き続ける海蛇の頭を撫でながらヒルルは首を左右に振った。
「友達ではありません。我輩の子です」
名はゴモラ。
ソドムの双子の弟だった。
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