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「うにゃああああッ」
ソドムの口からべっっっと吐き出されたサラサ。
全身、蛇粘液塗れ、べっとべとのぬっるぬるだ。
「おえーーーッ、きもちわるッ、あれっ?」
<牙の巣>のふかふか絨毯の上に転げ落ちて、まるで産まれ立てのような有様のサラサは、ぎょっとした。
「ガウウウ……」
「グルル……グルルルル」
獣姿のアクア・ナズナがボロボロになって倒れ込んでいた。
前回、木端微塵に負けたときよりもさらにひどい様子で苦しそうに唸っている。
蛇粘液塗れで気持ち悪いことも忘れてサラサは重なり合うアクア・ナズナに飛びついた。
「あーおいしかった、サラサちゃん」
涙目でキッと振り返れば中性的色白華奢美男子の姿で口元をふきふきしているソドムがいた。
「やっぱり体内でかわいこちゃんを全身味わうの、格別だよね?」
長い舌をシュルリさせて笑うソドムにサラサはフーーーーッと仔猫みたいに殺気立つ。
傷ついたアクア・ナズナを背後に庇うように両手を広げて「あっち行け!」と全力で喚いた。
純血悪魔であるソドムに対して混血こどもである三つ子。
以前、木端微塵に負けて力の差を思い知らされていたにも関わらず、サラサのため蛇に挑んだアクア・ナズナ。
丸呑みされた恐怖が心身にこびりつき、正直おっかなくて堪らないが、一生懸命彼らを守ろうとするサラサ。
そんな甥っ子三つ子を眺めてご満悦だったソドムは。
オォォ……ン
聞こえるはずのない鳴き声を耳にしてその場で凍りついた。
ソドムに訪れた明らかな異変。
サラサはガクブルしながらも目を見張らせた。
「あいつは、弟は海にいる、姿を変えられない肥満蛇は海から出られない、なのに、なんで声が、それに、こ、この匂い」
「オイタが過ぎますね、ソドム」
<牙の巣>を訪れたヒルル。
満身創痍な三つ子を前にして硬直していたソドムは恐怖を連れてきた大悪魔父に立ち竦んだ。
「そ、そ、それは」
ヒルルが手にしたソレにぶわりと悪寒、真っ白な肌に鱗の柄まで浮かび上がらせて、後退り。
「ゴモラです」
その名を聞いたソドムは。
一筋の白煙となってその場から掻き消えた。
「消えたっ」
「名を聞くだけで消えてしまいたいほどの恐怖に駆られたのでしょう」
「おじい様、ゴモラって誰?」
「ソドムの双子の弟です」
「? 兄弟なのに怖い? 変なソドムだ」
首を傾げているサラサにヒルルは海蛇ゴモラの一部を持たせた。
黒く煌めくガラスのように綺麗な鱗を。
「ソドム避けとして持っていなさい」
「うう……またソドムに負けた」
「火を吐かなくても、ソドム、強いよ……いたた……」
「お前ら弱い! 弱虫へたくそ! おれがいれば勝った!」
獣姿から人の姿になった傷だらけのアクア・ナズナに、さっきまでの健気な姿はどこへやら、サラサは偉そうに踏ん反り返る。
「サラサなんかソドムにもっかいむしゃむしゃ食べられろ!」
「こ、怖かった……死ぬかと思ったぁ」
いつもの三つ子に戻ったサラサ・アクア・ナズナに祖父ヒルルは「よく頑張りました」と珍しくお褒めの言葉をかけ、それぞれの頭を撫でた、サラサはどろどろだったから何気に省かれた。
母胎代わりの海の底で呪っているだろうね。
ボクらは双子の蛇。
兄のボクがこの運命を引き受ければよかったと、きっと、憎んでるよね。
『ゴモラ、また会いに来ますからね』
人間界のふかふかベッドに戻っていたカノン。
念のため身代わりとなって自分の姿に変身していた弟カフカと寝んねしながら、広い広い溟海 の底に棲む海蛇とヒルルのやりとりを思い出していた。
ただ昏く静かな世界で海蛇ゴモラに口づけた大悪魔。
かのん、おなか、ごろごろする?
おなかじゃない、胸のあたり、ごろごろ、ごろごろ?
「それはやきもちにゃ」
カフカに尋ねてみればそんな答えが返ってきた。
「やきもち」
『カノン、いつまでも一緒にいましょうね』
かのんも、いっしょいたい、ひるる太と、もっともっと。
ひるる太と、いっしょ、住んでみたい。
「は!? アッチの世界で暮らしてみたい!? 却下!!」
「どしてー?」
「なんか危ねーし! なんか怖そーだし! なんかやばそーだし!?」
「それならば千里さんもご一緒に期間限定で暮らしたらどうでしょう」
「……また勝手にいきなり不法侵入、つーか、そんなん無理、」
「そうと決まれば、さぁ、悪魔界へ今すぐご案内しましょう」
「うわぁッ、嫌だーーーー!!」
「ままにゃん、嬉し過ぎて泣いてるにゃ!」
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