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白タキシードに着替えた千里はヒルルの案内により渋々大悪魔の城を見て回っていた。
海外の観光スポットみてーだ。
お化け出そうっつーか、薄気味悪ぃっつーか。
そもそも案内なんて希望してねーし、ずっと寒ぃし、コッチは早いとこ結婚式済ませてとっとと帰りたいんだよ。
だってココ、ソルルの実家なワケだろ。
つーことは、だ、あのおっかねぇゴスロリ蛇姑がいるってこと、
「あら、御主人様」
「これはこれは、タキシードの花嫁さん、どーもご機嫌いかが?」
粛々たる重厚感に満ちた長い長い回廊、先を行くヒルルの背後で千里は立ち竦んだ。
何ともタイミングよく現れた、邂逅を危惧していた相手。
恐ろしく長いゴシックドレスの裾を石畳に延々と引き摺った、ミニハット帽のチュールレースで蠱惑的魅力に満ち満ちた双眸を際立たせた、まるで葬列に加わる出で立ちじみた残虐蠱惑的な悪魔。
大悪魔の妻君リリーだ。
その背後には、以前、おどろおどろしいテーマパークで千里に火を放った巨大蛇ソドムが中性的色白華奢美男子の姿で控えていた。
やっぱいたか、そりゃあいるよな。
千里はおもむろに深呼吸一つ、すると。
凍りつきかけた両足を前へ、カノンを抱っこしたヒルルの横を擦り抜けて。
禍々しい迫力に漲るリリーといけ好かないソドムの真正面へ。
「挨拶が大変遅れてしまってすみません、逢魔野千里と言います」
深く頭を下げ、だめだめぱっぱらぱーだったとは思えない誠心誠意ぶりで挨拶した。
「今更ですがソルルとの結婚を許してもらえないでしょうか」
並々ならないアウェイ感と真っ向から対峙して容赦ない恐怖を植えつけていった相手に許しを請う。
自分のために今日という日を願ってくれた我が子らのために。
他でもない悪魔夫のために。
すると。
「俺からも頼む」
千里の後ろにいたソルルまでもが隣に並んで頭を下げた。
ヒルルに抱っこされたカノンはおめめぱちくり。
飛び立つ素振りを見せたので、ヒルルが抱擁を緩めてやれば、ぱたぱた、ぱたぱた。
「かのんも、おねがい」
ちっちゃな翼をいっしょうけんめい羽ばたかせて自分の目の前にやってきたカノンを、リリーは、真っ直ぐに見据えた。
「前、かってにおへやはいった、かのん、悪いこ。ごめんなさい」
「貴方の非礼を許しましょう」
リリーは慣れた風にカノンを抱っこすると「妾こそ餌呼ばわりして失礼千万でしたわ、カノン」と、初めてソルル第4子となる孫の名を呼んだ。
「ソルル、そのお嫁さん、妾はチャペルでお待ちしているわ」
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