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32-めりくり・でもん
「悪魔からメリークリスマスです、千里さん」
今日はクリスマス。
カノンといっしょに無駄に広いリビングを昔懐かしい飾りつけで彩っていた千里はいつもの神出鬼没ぶりで現れた大悪魔・ヒルルの台詞にキョトンした。
ロングコートもマフラーもスーツもフォーマルベストも革手袋も黒・黒・黒、いつも通りビシッとキメキメなヒルル。
息子悪魔の人間男嫁とにこやかに向かい合ったまま「ソルル、来なさい」と口にした。
合図を待っていたかのように開かれたリビングの扉。
現れたのは。
「よぉ、千里」
百本の黒バラの花束を無造作に掴んだソルル。
ヒルルまではいかないがツイードの三つ揃いスーツでスマートカジュアル、さすが優等生悪魔、イイ感じにヌケ感を極めている。
前回のデーモンウェディングとはまた雰囲気の違う、見慣れない悪魔夫の姿にきゅんきゅんあわあわな千里、黒バラの花束をばさりと渡されて「ひょえっ」と悲鳴まで上げた。
「我輩からのプレゼントです」
「はっ?」
「俺を供物扱いするな、オヤジ」
「おめかしソルルとデート、ホテルのクリスマスディナーの予約もしています、どうぞ心ゆくまで楽しまれて下さい」
「いやいやいやいやっ、今日はウチでカノンとっ、カフカとっ、みんなで飯っ、なぁ!?」
きゅんあわな千里に呼びかけられて。
あったかいリビングの端っこ、折り紙をチョキチョキして大量につくった輪っかを繋げるのに夢中になっているカノンの代わりに、背中に乗っかっていた黒猫版カフカが答えた。
「サプライズメリクリ、ヒルル様から聞いてたにゃ。ままにゃ、ぱぱにゃ、メリクリデート行って来ればいいにゃ」
「でも、せっかくこんな飾りつけして、お前ら楽しみにしてただろ?」
「兄にゃんは飾りつけ自体に無我夢中なだけにゃ。今も狂ったみたいに熱中してるにゃ」
「なんだ千里、俺とのディナー、嫌なのか」
「嫌じゃねぇよッんなわけあるかッ」
人間雄母と男嫁の狭間でどーしよーと迷っている千里をヒルルは微笑ましそうに見つめた。
「行ってらっしゃい、千里さん。二人は我輩にお任せください」
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