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「かのん、わかんない、わかんない」
ぐずるカノンの前には。
ヒルルが二人いた。
「カノン、我輩が本物ですよ」
「カノンならどちらが本物の我輩か、わかりますよね?」
ヒルルの姿形どころか、仕草、表情、折り紙の首飾りまで見事なまでに完コピしたカフカ。
どっちが本物か当ててみようゲームでカノンを楽しませるつもりが。
どちらが本物なのか全くわからず、混乱し、泣き出してしまったカノン。
「ごめんにゃ、兄にゃ」
本物のヒルルにしっかと抱っこされたカノンは、心配そうに自分を覗き込むヒルル版カフカに濡れたおめめをパチクリさせた。
ぜんっぜん、わかんなかった。
ひるる太のこと、いっぱいいっぱい、好きなのに。
「ううん、びっくりしただけ、ごめんなさい」
「ボクこそごめんなさいにゃ」
ヒルルはヒルルで。
自分を完コピしてやってのけたカフカに不機嫌になるどころか興味津々、腕の中で愛しいカノンをあやしつつ、鏡を前にしているような不可思議な心地が新鮮で。
「我輩らも街へ出かけましょう、カノン、カフカ」
自分を完コピした状態のカフカを連れ立ってクリスマスの街へ出かけることにした……。
聖夜を飾りつけるイルミネーションはまだ眠りにつく昼下がりの街並み。
「うわ、何あれ、あの双子ヤバ」
「モデル?俳優?」
「映え~~」
カノン御一行はこれでもかと注目を浴びた。
それはデートを楽しむカップルだったり、家族連れだったり、友達同士だったり。
「えッ……あれはヒルル様……っ」
「まさか人間界で伝説の大悪魔と会えるなんて!」
クリスマスの人間界へ遊びにやってきた悪魔であったり。
「握手くだひゃい!」
「ヒルル様の歌声、あの痺れるエモなボイス、ううっ、尊い!」
「その首飾りも! エモいでふ!」
ハイテンションな悪魔らに街角で囲まれている光景に人々は「やっぱり芸能人だ」「もしかして海外? 外タレ?」と囁き合う。
「ところでヒルル様って双子だったんですか!?」
ちょっと離れたところではヒルル版カフカがカノンを抱っこしてあやしていた。
「兄にゃ、見て、ガラスの中にぬいぐるみがいっぱいにゃ」
オモチャ屋さんのショーウィンドウを眺めながら「きひひっ」と愉快そうに笑うカフカをまじまじと見上げて、カノンは、口を開いた。
「ほんと、そっくり、ふしぎ」
以前、温泉旅行で初めてヒルルと出会ったとき。
千里は迷ったが、カノンは父親のソルルではないとすぐにわかった。
鋭い目つきに白金髪、服装を抜かして外見はほぼ同じであったが、醸し出される雰囲気が違っていた。
しかしカフカはそれまでもバッチリ再現していた。
カノンにはそれが幼いなりに解せなかった。
「なーんにも不思議じゃないにゃ、兄にゃ」
通り過ぎゆく風に折り紙の首飾りがカサカサ、カフカはまた「きひひひっ」と笑う。
「祖の記憶を記憶してるボクは何でもできるにゃ」
月齢15の夜にカノンがおっきくなったときも同じことを言った末っ子悪魔。
「そ? どれみふぁそ?」
「ドレミファソー♪ の、ソ♪じゃないにゃ、兄にゃ」
ロレルリア公の思い出にゃ。
「ろれるりあ?」
「ヒルル様のおじい様にゃ」
それだけじゃにゃいけど、とカフカは心の中でこっそり呟く。
「らりるれろ?」
「違うにゃ、ロレルリア公にゃ」
ぱぱにゃよりも、ヒルル様よりも、ボクは彼の思い出を受け継いでるにゃ。
ちょっとした奇跡にゃ。
「へー」
「いつかきっと会うにゃ! ナデナデしてもらうにゃ!」
やっぱり、かふか、ふしぎにゃ。
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