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不思議な動物がいた。 「せんり、見て見て、おめめ」 「へーーーー。こんなの初めて見るぞ、珍し」 頑丈な強化ガラスの前で立ち止まった千里はすぐ向こう側で悠然と寛ぐ動物を繁々と眺めた。 雄ライオンであることは間違いないのだが。 目の色が双方違っている。 いわゆるオッドアイというやつだ。 「にゃんにゃん、にゃんにゃん」 「いや、そりゃーネコ科だけどさ、カノン」 「にゃんにゃん」 おさわり可のガラスに両手をぺったりくっつけてにゃんにゃん鳴く我が子。 すぐ隣で苦笑していた千里だったが、寝そべっていたオッドアイのライオンがのそりと身を起こしたので、ちょっと強張った。 サラサアクアナズナら、時に漆黒の獣の姿をした三つ子から過剰過激に甘えられていたが、本物のライオンとなると、どうにも怖気づくようだ……? 「じゃ、次行くか、海ゾーン楽しみにしてたろ?」 千里がいくら声をかけても、カノン、微動だにせず。 ガラスを隔てて真正面にライオンが迫ろうと人間雄母のように怖気づくことなく迎え入れた。 やたら美しい毛並みだった。 飼育されている他のライオンよりも精悍な顔立ち、雄々しい眼差しに立派な牙、明らかに一頭だけオーラが違う。 神々しいまでの雄ライオンはタテガミを揺らめかせて、ガラス越しに……カノンの小さな手に頬擦りした。 「わぁ」 海の生き物ゾーンで丁度餌やりタイムが始まっており、多くの客はそちらへ集中して普段より人の少ないライオン展示場にカノンの感嘆の声が響いた。 「すごい、せんり」 「そ、そだな、すげぇ」 「ねぇ、あれ見て、あのライオンきれいでかっこいい」 「あんなに懐かれて、あのコ、何者?」 少ないと言っても動物園では人気の肉食獣だ、カノンとライオンの珍しい触れ合いに他の客がわらわら集まってきた。 携帯で撮影しようとしている者が視界に入って、慌てた千里はまたもカノンを抱っこして立ち去ろうとしたのだが。 「やーーーっ」 「えぇぇえ、カノン、ほらっ、あっちでお魚丸呑みショー始まってるぞ?」 「らりるれろ」 千里は幻聴かと思った、急に我が子が脈絡もなくラ行を口にしたので自分自身がトチ狂ってしまったのかと思った。 「えぇぇえ……カノン、どした、何で急にラ行、ア行ならまだしも、なんで?」 ガラス越しの交感に夢中になっているカノンに途方に暮れかけた千里であったが。 さらなる衝撃的な展開に人間雄母性を揺さぶられることに。 なんと目の前でカノンが……獣化した。 卵から孵ったばかりの授乳期を思い起こさせる、ちっちゃなちっちゃな獣っこに突拍子もなく姿を変えたのだ。 「ふみゃぁ」

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