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やばッ、どうしよッ、えッ、なんで急にッ、あッ、やっぱ獣っこカノンかわいッ、つぅか懐かしスギッ、じゃねぇッ、どうするッ、一先ず今すぐダッシュでこっから、ああッ、カノンかわいッ。
てんぱり千里、三秒間混乱した末、しゃがみ込んでダッフルコートごと我が子を抱きしめた。
「あれ、さっきのコは……?」
「今、なんか、変なモンが見えた……」
カノンの獣化を目撃した人々が俄にざわつき出した、てんぱり千里は青ざめた、ぎゅっと獣っこカノンを抱きしめた、次の瞬間。
皆の鼓膜を戦慄させる衝撃音が走った。
千里も含め、展示場にいた人々全員が同時に視線を向けた先には。
頑丈なはずの強化ガラスに歪に刻まれた無数のヒビが。
たったさっきまでカノンとほのぼの交感していたライオンの片前脚がガラスを突き破っていた。
当然、その場はパニックに陥った。
家族連れの親は我が子をすぐさま抱き上げ、カップルや友人同士は手を取り合って展示場から一斉に逃げ出した。
我が子から皆の関心が逸れたことで千里は逆に冷静さを取り戻す。
獣っこカノンをダッフルコートですっぽり包み込み、立ち上がり、安全な逃走経路を瞬時に見極めて迷わず突っ走った。
「ふみゃ」
あったかいダッフルコートの下、自分をしっかり抱く人間雄母の肩越しに、獣っこカノンは見た。
ひび割れたガラス越しに自分達を見送る彼の姿を。
「はーーーーッはーーーーーッ……こ、ここまで来れば、もう……うぇッ、げほげほッ、ひっさびさに全力ダッシュしたから……おぇッ……吐きそ……」
「せんりー」
千里はパチパチ瞬きした。
動物公園を猛ダッシュで後にし、スピードを緩めずに走って走って走り通して、こぢんまりした人気のない児童公園に突入、ベンチに仰向けに倒れ込んでゼェハァしていたら。
ヒトの姿に戻ったカノンがダッフルコートからひょこっと頭を出した。
大きく上下する胸の上で、ふわぁと欠伸をし、目元をごしごし、ごしごし。
「かのん、さむい、ねむい、おなかぐーぐー」
まだ青く澄んだ空。
今にも朽ちそうな葉を翳す冬枯れした木の下で千里はつい笑った。
コート以外の服もニット帽子もスニーカーも途中で落としてしまい、素っ裸で寒がるカノンを力いっぱいハグした。
「うん、寒ぃな、今日はあったかいものいっぱい食べてグーグーしよーな、カノン」
我が子に風邪を引かせるわけにもいかず、これ以上人目を引きたくなかった千里は、行きはバスを使用したルートをタクシーで帰った。
そうして我が家に帰宅してみれば。
「にゃにゃにゃ!」
「カノンは寝てるのか、千里」
「千里さん、カノンがすっぽんぽんのようですが、それは新しいファッションか何かですか」
お留守番していたカフカを肩に乗っけたソルル、ダッフルコートに包まってすやすや中のカノンにすでにデレかけているヒルルに出迎えられた……。
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