5 / 114

第5話

「春樹、ただいま!」 「兄さん!おかえりなさい、お仕事お疲れ様」 玄関を開けると、お出迎えしてくれる愛しい弟。中学3年生なのに、反抗期なんて一切ない。兄さん、兄さんと後を付いてくる姿はとても可愛らしい。 「いつもごめんね…。一人でご飯食べるの寂しいよな」 「いいんだ。だって兄さんが頑張ってるの知ってるから!…兄さんこそ、最近帰り遅いけど大丈夫?仕事そんなに忙しいの?」 ううん、仕事はちゃんと定時に上がらせて貰ってるよ。なんて言えない。 弟に嘘を付くなんて、嫌だけど…。 「うん、今は繁忙期だから。暫くは帰りが遅くなると思う」 「…そう」 シュン…と悲しそうな顔をして俯く弟を見て、いたたまれない気持ちになった。 弟の為にも、早くお金を貯めよう。不安にさせてはダメだ。俺は兄なんだから、もっとしっかりしないと。 「そうだ、シュークリーム買ってきたんだ。一緒に食べよう!」 「本当?!やったー!」 そうやって無邪気に喜ぶ顔は年相応で可愛らしい。 着替える為に洗面所に行く。鏡に映る自分は、また少し痩せた気がする。早川さんと外食する以外、きちんと食べていないから当然だけど。 ……この生活はいつまで続くのだろう。終わりがないように感じて、嫌になる。 もう何もかもを投げ出したい。 この生活から、誰か救い出して欲しい。 ……なんて、一番信用できない他人に助けを求めるなんて絶対にないだろうけど。

ともだちにシェアしよう!