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第32話

こんなにも夕方になって欲しくないと思ったのは初めてだ。いつもは時間が過ぎるのは遅く感じるのに、今日はとても短く感じる。あっという間に退社時間になり、次々と先輩が帰っていく。伊東もその一人で「お疲れー!」と元気にペカペカした笑顔で帰って行った。 俺も帰りたい。胃がキリキリするし、動悸もすごい…。これは過度なストレスから来る体調不良だ。 いつもは何気なく過ぎていく風景も、やたらと気になり、何かキャンセルできる方法はないかと考え、探した。 しかしどんなに抗っても無駄なのだ。約束の時間は刻々と迫り、現に俺は指定された駅前に来ている。 もうすぐ18時になる。心臓がバクバクとうるさい。 落ち着け、落ち着け、まずは深呼吸 すー…はー…すー… 「お待たせ」 「はい!?」 深呼吸をしていると後ろから声を掛けられた。恐らくSNOW DROPの社長だろう。 カチコチと振り向くと、そこには高そうなスーツに身を包み、綺麗な顔の男性が立っていた。 しかしこの顔、見たことがあるぞ? 「レンさん、何してるんですか?それにその格好… まさか…!?」 「ビンゴ」 これは天然と言われる俺でも分かる。 レンさんのジョークキツいな…と思いたかった。 だがこれは現実。クラっと目眩がするが、グッと足を踏ん張って耐える。これが夢ならどんなに良かったか。 俺、とんでもない人とセフレになってた…。 「数々の無礼をお許しください!」 「はは、その話はまた後でな。車乗れよ」 いつの間にか高そうな車に乗せられ、いつの間にか俺はソファに寝ていた。 あの一瞬で何が起きた?記憶が曖昧でよく思い出せない。と言うか、ここは…? ホテルよりも広い、モデルルームみたいな部屋にいる。

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