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第35話

こんな話、聞きたくなかっただろう。しんみりしてしまうと思い、精一杯の笑顔で顔を上げた。別に可哀想だとか、同情して欲しいとかは思っていない。だから、大丈夫だよ、という意味を込めて。だけど蓮さんはそんな俺の顔を見て悲しそうな顔をしていた。 同時にギュッと力強く蓮さんに抱きしめられた。よしよし、と頭を撫でられ子ども扱いされてるようだ。 「よく頑張ったな。夏樹はすごいよ」 「え…?蓮さん?」 「俺は夏樹の力になりたい。困ってる事があったら言ってくれ」 その言葉に、思わず涙が出そうになった。 両親が亡くなってから半年、まだ高校生だった俺は大人になろうともがいていた。 今まで母親に任せきりだった家事も出来るように頑張ったし、大学を辞退して就職活動も頑張った。 親戚とは疎遠だったし、誰も助けてくれる人なんていない。弱音を吐ける人もいない。 みな同情はしてくれたが、誰も褒めてなんてくれなかった。 だから蓮さんに初めて、「頑張った」と言われて嬉しくて。 「頑張った」なんて言われて喜ぶなんて子どもみたいだ。だけど今はその言葉が一番嬉しい。 「ありがとう、ございます…」 「まぁとりあえず100万ほどお前の口座に振り込んどいたから」 「はい…?!」 ちょっと待て、話がぶっ飛びすぎてよくわからん。さっきまでのしんみりモードはどこへやら、蓮さんはニコニコと笑っている。 その様子からして本当に振り込んだのだと確信し、血の気が引いた。 蓮としては全く悪気はなかった。だから夏樹に拒否されるとは思っていなくて頭にハテナが浮かぶ。 夏樹の話を聞いて、すごく胸が痛くなった。無理して笑ってる夏樹が痛々しくて、ギュッと抱きしめてたくさん褒めてあげたいと思った。 俺が夏樹を幸せにする。いや、しないといけない。そう思った。 それと同時に、この感情の名前を知る事となった。

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