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第78話
「兄さん帰ってたんだ。あっ……!」
「これ、どういう事か説明してもらえる?」
風呂上がりの弟を座るように施して、目の前に問題の通帳を見せる。
弟は泣きそうになっていて、このお金はいいお金じゃないのだと思った。 俺の方が泣きたいのを堪えて、声を絞り出して問う。
「このお金は何? 援交、してるの……?」
「してない……、今はもう……」
「今はって……。前までしてたって事だよね? なんで……?俺は、春樹に体を傷付けて欲しくなかった……」
「……兄さん、ごめんなさい……。でも、兄さんだってしてるでしょ……?」
弟のその言葉に、思考がフリーズする。
なんで……?なんで春樹がその事を知っているの……?
「俺が何も知らないと思った?同じ事してる兄さんに、どうこう言われたくない」
「春樹っ……!どこ行くんだよ!」
「ごめん、兄さん。しばらく距離を置いた方がいいと思う」
いつも学校に持って行くリュックサックを持って、部屋を出て行ってしまった春樹。
追いかけた方がいいのだろう……けれど、それが出来なかった。 静まり返った部屋に一人残された俺は、自然と涙が流れていた。
「同じ事をしている」確かにそうだ。俺は、春樹に何か言える立場ではない。
弟の為にと思ってしていた事が、弟を傷付けてしまう事になるとは思わなかった。
ごめん、ごめんね。ダメな兄でごめん。汚い兄でごめんね……。
きっと春樹は、付き合っている彼女の元に行くのだろう。
俺は……どうすればいいのか分からない。
助けて欲しい……。誰か……。
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