79 / 114

第79話

誰も居なくなった静かな部屋で、声を殺して泣いた。 明日も仕事だと言うのに、こんなに泣いては目が腫れてしまう。営業は顔が命なのに……。 分かっているけど、涙は止まるどころかどんどん溢れ出てくる。 涙ってどうしたら止まるの……? ポケットに入っていたスマホが震えて、画面には『蓮さん』の文字が。 泣いてるのがバレないようにしないと……。これ以上迷惑はかけられないし、俺たちの問題に蓮さんを巻き込むのは良くない。 すー、はー、と深呼吸をして息を整える。 「……はい」 『あ、夏樹? 俺の車に透明なファイル忘れていってるけど、明日使うのか?』 どうやら忘れ物をしていたらしく、ご丁寧に電話をくれたという訳だ。 透明なファイルはたぶん使わないから大丈夫だと思うけど……。 それよりも蓮さんの声を聞いたら安心して、先程まで会っていたのに、また会いたくなってしまうではないか。 でも、こんなの俺のワガママだし……。 自分が悪いのに、あわよくば蓮さんに慰めて貰いたいなんて思ってしまう自分がいる。 『……夏樹、どうした?泣いてたのか?』 「な、……泣いてないですよ。そのファイル明日は使わないので大丈夫です」 いつもの俺を演じたつもりだったのに、バレそうになっているのは何故だ。 いつも通りだった筈なのに。 優しい口調で話されて、堪えていた涙がまた出てきそうになる。 『まだ寝るなよ。部屋の鍵開けとけ』 「えっ、なに… …切れた……」 蓮さんは早口でそれだけを伝え、一方的に電話を切ってしまった。 何だったんだ……。

ともだちにシェアしよう!