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第80話
さっきから弟にメッセージを送っているのに既読は付かないし、完全に無視されている。
今まで家出なんてしなかったのに……。
それだけ俺がやっていた事は弟を傷つけてしまう程ダメな事だったんだと分かる。
だけど、それは俺も同じ気持ちで。
まさか弟も同じ事をしているなんて思わなかったし、辛い思いをするのは俺だけで十分だと思っていたのに……。
弟は何故、援交なんて始めたのだろうか。
そんなにお金が必要だった?
俺はそんなに頼りなかった?
思い当たる節はたくさんある。
ごめんね、春樹……。だけど、お金を多く稼ぐ方法はこれしかなかったんだよ……。
後悔はしていないけれど……。もし、金銭的に余裕があったなら、こんな事にならなくて済んだんだよな……。
部屋の隅で体育座りしていると、いきなりドアが凄い勢いで開いた。
「夏樹!大丈夫か!」
「ぎゃあっ!! え……、蓮さん、なんで……?」
「どうしたんだ、そんなに怯えて」
「どうしたんだ」はこっちのセリフだし、怯えているのはなんの前触れもなく部屋のドアを開けた蓮さんに対してだ。
泥棒かと思った!無差別殺人の標的になったのかと思った!!
「あれ? 弟の姿が見えないけど……」
「春樹なら、出て行きました。俺と距離を置きたいって」
「何だよ、そのカップルみたいな喧嘩」
カップルみたいな喧嘩ってなんだよ……。
こっちは深刻な悩みと言うか、もう後悔しても戻れない事態になってしまったというのに。
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