93 / 114

第93話

「蓮にお願いがあるんだ」 突然社長室に入ってきて(もちろんノックなどしない)、語尾に音符でも付くんじゃないかと思うくらい楽しそうにソイツは言った。 「お前のお願いはろくな事がない。あと、ノックぐらいしろ」 「ごめんごめん。でも、蓮にとってもいい話だと思うけど?」 ソイツは勝手に来客用のソファに座り、夏樹の為に置いてあったクッキーをポリポリと食べ始めた。 この失礼極まりないヤツは、俺の高校の頃からの幼馴染、秋山 真太郎という男だ。 ルックスは良いが、中身はこんなだ。性格が真逆な俺たちが仲良いのは未だに謎。 「うちの稼ぎ頭のアンナちゃんがね、誘拐されそうになったんだって。しかも、犯人は他の風俗店の経営者だよ。意味わからないよね」 「へー」 「んで、ここからが本題。その風俗店の経営者……早川って言うらしいんだけど、蓮が所有している公園がハッテン場になってるじゃん?そこをハッテン場だと広めたの、早川らしいんだよね」 早川……聞いた事はないが……。もしかしたら夏樹は知っているかもしれない。 珍しく真剣な顔で真太郎は続ける。 「ハッテン場で知り合った何も知らない子を連れて帰って、風俗に落とすって言う卑劣な事をしてるらしい。 うちのアンナちゃんを傷つけたの、許せないんだよね。蓮も自分の土地を勝手に使われて嫌だろ?」 「確かにな。 分かった、今回は協力してやる」 その話を聞く限りでは、その早川という男は最低の奴だ。 もし夏樹と知り合いなのなら、夏樹にも危険が及ぶという事。それだけは絶対にダメだ。

ともだちにシェアしよう!